瞬間英作文では発音も気にすべき?【全部完璧でなくても良い話】
「瞬間英作文で、発音ってやっぱり気にした方がいいの?」
「発音まで気にすると大変なんだけど..」
「自分はあまり気にはしてない、とはいえやっぱり発音も大事なのかな?」
今日はこんな疑問に答えます。
この記事を読むことで、瞬間英作文で発音は気にすべきかどうか、発音も踏まえた学習の進め方について理解できます。
本記事の内容
- 瞬間英作文で発音は気にした方がいい?【全部完璧でなくても良い話】
- とは言え、発音も大事では?どう上手く学習を進めて行くか。
今日も主観に偏り過ぎないよう、言語学習における認知的側面(脳内でどんな情報処理をしているか)など、関連するアカデミックな文献も参考にしつつ、私なりの考えを書いて行きたいと思います。
それでは行きましょう。
瞬間英作文で発音は気にした方がいい?【全部完璧でなくても良い話】
まず私の考えから書きますと、瞬間英作文中、発音まで気にすると練習がやりにくいということであれば、一旦は発音は目をつむっていいと思います。
というのも、練習の初期段階から一気にいろんなことを意識しすぎると、今のその人の脳内の処理力やキャパに対して負荷がかかり過ぎてしまうからです。
それにより「本来鍛えるべき脳の筋肉(情報処理)」のトレーニングに十分取り組めなくなってしまうからです。
どいういうことか、以下に詳しく説明します。
スピーキングはいろんな脳内処理があって大変です
スピーキングをスムーズに行うためには、少なく見ても以下の3つの脳内の処理を同時並行的に行う必要があり、とても忙しいです。

①概念化は、「こんな感じのことが言いたいな」というメッセージの内容に関する脳の情報処理です。
この時点ではまだ具体的には言語という「形」を持ってません。まだ抽象的なアイデアの段階です。
“What to say” をプランするための情報処理とも言えます。
②形式化は、①でプランされた「こんなことを言いたいな」という情報をもとに、それを具体的にどんな言語形式(単語や文法構造、発音など)で言うのかをプランするステージです。
“How to say” をプランするための情報処理とも言えます。ここで初めて、日本語・英語といった言語的な知識が引き出され実装されます。
なお形式化は、「文章化」「言語化」とも呼ばれたりします。
③調音化は、②でプランされた「こんな単語、文構造、発音で言うぞ」とプランされた情報をもとに、実際に喉・口・舌の筋肉を動かして「音にする」ステージです。
ここまで到達してようやく、相手も認識が可能な発話となります。
人が言葉をしゃべるとはこのように、「こんなことが言いたいな」と言う「意図」からスタートし、それを実現するために、具体的にどういう文章や発音でいうか、どう筋肉を動かすかを順にプランし、発話に至るという行為です。
母語話者だとこれら3つが上手く回る
我々が日本語を話す場合、英語ネイティブが英語を話す場合は、これら3つは基本的に円滑に回ります。
特に②形式化と③調音化については、かなりの部分が「自動化」してます。
自動化されたスキルの特徴は、
be able to perform the action without even being aware that they are doing it
= 自分が今それをやっていると意識することもなしに、その行動をとれる
ことです。(Johnson, 1996, p.89より引用、訳:松田)
我々が日本語をしゃべるときに、特に必要がなければ単語のことや文法、発音や口の動かし方などは意識しなくても問題ないと思います。
一方で、①概念化については基本的に話者はここに意識を向けながらしゃべります。
会話中は、相手のしゃべった内容に応じて「次に何をいうか」を考えたり、相手の反応も見つつ「どの順番で情報を伝えるか」「自分の言った内容は間違ってなかったか」までチェック(モニタリング)するパートです。
ある程度自動化している部分もありますが、「状況に応じた臨機応変さ」が求められるため話者はここに注力します。
それでも問題なくスムーズに喋れるのは、①概念化で「何をいうか」を一旦プランニングしたら、②形式化 ③調音化がもはや無意識レベルで、正確かつスピーディーに実践できるからと言えます。
第二言語学習者は、形式化・調音化の自動化が不十分
一方で、第二言語学習者は、②形式化と③調音化の自動性がそこまで高くありません。
よく英語をしゃべっていても、「あれ、語順は次なんだったけな?」「英単語だったけ?思い出せない..」など都度考えながらやってしまいます。なかなか流暢にしゃべれないのは②形式化の自動化が不十分だから起きる現象と言えます。
また、英語の発音に慣れておらず、一応頭で英文は思い浮かんでいるけど、口がうまく回らずぎこちなくなってしまう、というのは③調音化の自動化の問題と言えます。
スピーキング中このようなことが度々起きると、本来メインで頭のリソースを割くべき①概念化に意識を向けることができません。
本当であれば、「次に次に何を言うか?」を考えて、それをどんどん言葉にしていかないといけないのですが、1文を全部③まで言い終わってからでないと次の文の①概念化に取り組めない、と言う状況になってしまいます。
スピーキングのためのファーストステップ→ 形式化と調音化の自動化
形式化と調音化の自動化が必要です。
日々の練習を通して自動化をしっかり促し、①〜③の脳内の各情報処理を円滑にお互いにうまく噛み合うようにしていくことが、流暢なスピーキングのためには重要です。
ではそういったスピーキングスキルの全体像を踏まえ、一体瞬間英作文とはどこにフォーカスした練習なのでしょうか?
瞬間英作文 → 形式化をメインにフォーカスした練習
瞬間英作文は②形式化、その中でも「統語処理」をメインに鍛えるための練習です。
統語処理とは、
ある文法ルールをもとに、語順などの文構造や、その他の時制など文法的な側面も踏まえ、必要な単語を記憶から引き出しつつ文を組み立てていくこと
です。
これは瞬間英作文という練習が、
- 各ページごとに軸となる文法テーマが設定されており
- その文法をもとに10個に及ぶあらゆる文を自分でどんどん作り出していく
というものだからです。
これを繰り返して、文脈など取り払った短文レベルであれば、最終的には文法の型にそって自分で素早く英文を組み立ていけるようにする、つまり、自動化することを目的としています。
(詳しい瞬間英作文の効果について » 参考:瞬間英作文ってどんな効果があるの? )
※概念化、調音化に取り組んでいない訳ではない。
とはいえ、①概念化や③調音化に取り組んでいないということはありません。
瞬間英作文では、
▽② テーマとなっている文法ルールを踏まえ英文を組み立て(形式化)
▽③ 口で言う(調音化)
と頭の中で行っています。
基本▽①は行なっているはずですし、頭の中だけではなく実際声に出しながら瞬間英作文をした場合は、③の調音化にも取り組んでいると言えます。
ただ、この練習において「何に主に意識を置いて練習するか」の問題です。
私は基本的に瞬間英作文は、②形式化(特に統語処理)の部分は外してはいけない練習と思います。
というか、多くのテキストが「文法テーマをもとに、10個近くの英文を作り出して行く」という仕様になっている以上、まずこの強みをまず活かした練習、スキルを身につけた方がいいと思っています。
練習中、▽①〜③まで一緒に処理し難なく実践できるのであれば、問題はありません。もちろん発音までこだわって練習することもOKです。
ただそれを三位一体で練習することが難しい場合、特にそれによって統語処理に取り組むことが難しい場合、そこの処理を優先するための、ある種のサポートが必要です。
対策:統語処理を犠牲にするくらいなら、発音は一旦置いておいてOK
もし発音が気になりすぎて、スラスラ瞬間英作文を進めていくことが難しいという場合。特にはじめは、発音は気にしなくてOKです。
それよりもこの練習がメインフォーカスとしている、統語処理にしっかりと自分の意識を集中させ、練習をするようにして行きましょう。
スキルという観点から言語習得を研究するJohnson 曰く、
When a skill is newly learned, its performance takes up a great deal of conscious attention
(1996, p.89; 2008, p102)
あるスキルが新しく学ばれるとき、それを実際行うのに消費する意識量は相当なものである
(訳:松田)
とのことです。
瞬間英作文をはじめて間もないときに、語順など文法面なども考えながら、
「子音は間違ってないかな」
「口の動き難しいな、うまく言えないな..」
などと一度にいろんなことを意識し過ぎてしまうと、練習自体がなかなかうまく前に進まなくなってしまいます。
これは、人間の認知的に過負荷 “cognitive overload” な状態と言えます(Goh and Burns, 2012)。
結果としてどっちつかずのような形になり、本来鍛えるべき統語処理にも浅くしか取り組めず、瞬間英作文のもともとのメリットも得られなくなってしまいます。
特にはじめは完璧を捨てる→ ボソボソ発音もOK!
特にはじめは、ボソボソ発音でもOKです。
ストレスをためずに練習を進めていくことが肝心です。
一度に多くのことを詰め込もうとすると、「その日の練習で何をできるようになったのか?」ということが見えにくくなります。
例えば英会話のフリートークレッスンなども一緒です。
フリートークのような実戦に近い会話は、①概念化〜③調音化を流暢に行うことに加え、相手の言っていることを理解すること(リスニング)も同時にしないといけない、非常に複雑で高度な技能が求められます。
「各小さなスキル」が1つ1つ身についてない状態で、いきなり取り組んでしまうと、「話をつなぐのがやっと」「思い浮かんだ単語を出しただけ」などとなってしまいます。
このような状態では、レッスンが終わってもただ
「大変だった…」
「難しかった…」
etc.
と言う感覚が残るだけになり、「今日はこれが身についた!」という進歩感も感じられなくなります。
そして実際、練習中も認知的な過負荷な状態なので脳が必要な言語処理に取り組んでおらず、スキルもあまり向上しません。
そのような状態が続くと、結果、やめてしまいます。
これは英会話レッスンの例ですが、瞬間英作文(他のあらゆる練習)においても、
英語学習は自分のレベルに合わせて、認知的負荷を調整して “manageable” にしていく
これが重要です。
もし発音まで気にし過ぎてしまい、「1文言い切るのだけでも大変だ」「練習がどっちつかずだな」と感じる場合には、あえて口はボソボソぐらいの発音でもいいです。
「文法をもとに、文を組み立てていく」という統語処理に注力し、まずは瞬間英作文のメリットを最大限得られるようにしましょう。
とは言え、発音も大事では?
発音ももちろん欠かせない大事なスキルです。
発音が間違っていれば、相手が正確に理解してくれる確率が減ります。
また、前半で見たように、スピーキングは①概念化〜③調音化(発音含む)までがスムーズに行われて、しっかりと流暢にしゃべれるようになります。
ですが、①〜③の各処理が十分自動化されてないうちに、
▽ 練習がうまく進まなくなってしまう
というのがこれまでの議論でした。
ということで、③調音化(発音)までどのように学習の中でうまくカバーすればいいか、以下の2つのステップが大事です。
- ステップ①:発音は発音で独立して練習し自動化
- ステップ②:発音以外の他のスキルと統合していく
ステップ①:発音は発音で独立して練習し自動化する
瞬間英作文でまず主に統語処理に注力したように、まずは発音に第一のフォーカスを置いた練習を独立して行なっていくといいと思います。
例えば1語単位での発音の練習。
単語帳を使って、ある程度単語の意味は定着した段階で、
- 付属のCDや発音が聞ける辞書なども活用しながら、ただしく発音をしながら一単語ずつ復習していく
- その際、アクセントの位置や子音や母音の音の作り方、口の動かし方まで確認する
ということを普段から行なっておきましょう。
何度も繰り返し取り組むようにし、発音の自動性を高めておきます。
また、英語の発音については、1語単位を超えたプロソディー(韻律)も非常に大事な要素です。
例えば
・同時に発音するオーバーラッピング
etc.
なども繰り返し練習して、
- 文単位での自然な抑揚・イントネーション
- 内容語に強勢、機能語は弱く発音してつくる英語のリズム
- リエゾンや音の消失、flap Tなど音の変化
といった音声の出し方も、しっかり練習して自動化しておきましょう。
(なおこれも、特にはじめの段階では負荷が上がりすぎるため、「意味を理解をしよう」と取り組まななくても大丈夫です。あくまで音の聴き取りと発音に集中していきましょう)
このように、発音は発音で本腰を入れて取り組み、しっかりこの段階で自動化をしておくことが重要です。
ステップ②:発音以外の他のスキルと統合していく
それから瞬間英作文などの練習でも、発音の面まで意識して取り組むようにしましょう。
とはいえ、もしステップ①でしっかり正しい発音やそれに伴う口の動きの自動性を高めることができれば、そこまで特段意識せずとも、瞬間英作文の中でも比較的楽に、自然に発音ができるようになっているはずです。
また瞬間英作文中に、不完全な発音に気づいたとしても、全体的な負荷が下がっているので、そこだけに集中してすぐ修正も加えられるはずです。
「部分練習 → より大きな全体練習」が鍵
このように、
- 発音は発音として別個に「部分練習」として行い、事前に自動性をしっかり高めておく
- その上で、発音だけではない「より大きい範囲のスキルが求められる練習」に取り組んで行き、他のスキルと同時にできるようにしていく
というアプローチがとても重要です。
これは、何もスピーキングや瞬間英作文という練習に限りません。
リスニングも、大きくとらえると
▽ 理解(単語・文法の処理〜自分の一般常識的な知識とも照らし合わせて内容を掴む処理など)
という2つのプロセスから成っていますが(門田, 2015)、「なかなか聞けるようにならない」と大きくつまづいてしまう要因は、はじめから一気に全部を取り組んでしまおうとするからです。
「言語を円滑に使うスキル」とは、学者Johnson(1996, p.155)のいうところの、
doing various thing at the same time [中略] ー combinatorial skill
同時に様々なことを行う [中略] ー 組み合わせのスキル
(訳:松田)
です。
学習をする際には、
- そのスキル(リスニングやスピーキング)はどんな小さなスキルの組み合わせで成り立っているか
- 今やっている練習では、どの小さなスキルにフォーカスすべきなのか
を見極め、集中的にそれぞれの小さなスキルの自動性を高めて行くことが大事です。
そしてその上で、小さなスキルどうしを一緒に練習する場合を設け、全体的な1つのスキルとしてまとめ上げていくことが重要です。
まとめ
今日は瞬間英作文で発音は気にした方がいいのか?というトピックでした。
- 発音が気になりすぎて、本来瞬間英作文で鍛えるべき統語処理に取り組めないなら、一旦は度外視してOK
- 「小さなスキル」として発音と統語処理は部分的に練習しておき、それぞれ自動化してから、2つ一緒に意識して練習して行くのが良い
という内容でした。
おわり
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【参考文献】
Goh, C. C. M. and Burns, A. 2012. Teaching speaking: a holistic approach. New York: Cambridge University Press.
Johnson, K. 1996. Language teaching and skill learning. Oxford: Blackwell.
Johnson, K. 2008. An introduction to foreign language learning and teaching. 2nd ed. Edinburgh: Person Education Limited.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.