英語音読の効果とは?【言語処理の認知メカニズムから解説】
「具体的にどんなメリットや効果があるのか、理由も含めて知りたい。」
今日はこんな疑問に答えます。
本記事の内容
- 英語学習における、音読の目的・効果とは?
- なぜ音読は効果があるのか?その理由とは。
- 日本人にとっての音読の必要性
音読は、いろんなところで推奨されている練習法と思います。
ですが、ただ漫然とやっていては効果は上がりません。
また、何のために繰り返しているかわからず続けるのは辛いものです。
何を意図するトレーニングなのかしっかりと理解し、根拠をもって学習に取り組めるようにしましょう。
今回も主観だけに偏り過ぎないよう、応用言語学・第二言語習得からの文献も参考に書いて行きたいと思います。
では行きましょう。
英語学習における、音読の目的・効果とは?
まず結論ですが、音読の目的・効果は以下です。
音読の目的・効果
- すでに覚えた英語に関する言語知識(単語・文法など)を「くり返し積極的に使う」ことで「自動化」を促す
- それにより、スピーディーな理解力を身につけられる
- 特にリーディングとリスニングに効果的
このようになります。
以下に詳しく解説します。
持っている知識を何度も使用する → 知識の自動化に有効
音読は、声を出しつつ、文章の意味内容も捉えながらくり返し読んでいきます。
正しい方法で、きちんと言語処理を行いながら音読に取り組めると、その言語処理がスピーディーに、楽にこなせるようになってきます。
これを知識、もしくはスキルの「自動化」と言います。
自動化は、流暢な理解力の必須条件
自動化の、「スピーディーにこなせる」ということもさることながら、「楽に(無意識に)」行える、ということも言語運用にはとても重要です。
単語や文法に関する処理を「無意識的に」行えることで、英語に触れている間、本来の目的である「理解する」方に純粋に集中できるからです。
どういうことかリーディングの例で解説します。
例えばリーディングでは、文字を知覚してから内容を理解するまで、頭の中で以下のような情報処理をしているとされています。
(※①〜⑥の各処理については、【仕組みから理解】理想の英語リーディング力とは?で詳しく解説しています。)
特に学習初期の頃は、①〜④の単語や文法といった言語的な処理のほとんどのリソースが取られてしまい、肝心の⑤⑥といった「内容の理解」に取り組めません。
英語を読んでいるときに、「目の前の1文の意味をとるのがやっとで、内容が頭に入ってない..」という現象もこれが原因です。
ですが、音読によって主に①〜④を自動化することが可能です。
その分頭に余裕ができるので、リーディング中、より⑤⑥寄りの「文章を理解する」方に集中することができます。
基本的には、日本語を読むときは、上記のような状態が実現されてるはずです。
音読によって、英語の場合もこのような状況を作り出せます。結果、リーディング中も、しっかり全体の内容を把握しつつ、安定的に読み進められるようになります。
(なお、リスニングはここに「音声の知覚」処理が重要な処理として加わってきます。それ以外の理解までのプロセスは、概ねリーディングと一緒です。)
音読は新しい知識を学ぶための学習法ではない
以上のような意味で、音読は、新しく英語の知識を教わるための「座学」とは目的が異なります。
この認識が大事です。
くり返し使うことで使うスピードを速め、自動的に頭が動く状態をつくるためのものです。
なぜ音読は効果があるのか?その理由とは。
それでは、なぜ「声を出しながら、くり返し英文を読む」という音読が効果的なのか、より詳しく見ていきましょう。
理由は大きく2つがあります。
理由1:音韻符号化に意識的に取り組む練習だから。
これは、応用言語学者の門田(2015)によって指摘されており、主にリーディング力に関連があります。
目にした単語を、頭の中で音声化することを「音韻符号化」といいます。
音韻符号化は、先ほどの図にも出てきたリーディングの主要プロセスの1つ(②)であり、主に単語の処理に関わっています。
音読は英文を声に出して読んでいきます。
なので、この音韻符号化を意識的に行うことになり、結果、ここの処理が鍛えられます。
単語の意味の認識に重要な音韻符号化
人間はリーディングの際、目でとらえた単語をもとに、頭の中でその意味を検索しようとします(①単語認知)。
実はその際、一旦目にした単語を音声化(音韻符号化)することによって、その意味にアクセスをしています。
例えば以下です(”coffee” という単語を目にした例)。

上記のような、太い矢印のルートを辿って、その単語の意味に到達します。
音読で音韻符号化が自動化 → 意味の認識が高速化
音読によって、学習者は、半ば強制的に「文字を発音する」という行為をくり返すことになります。
なので、その度に頭の中で「スペルと音との結びつき」が強化され、素早く音韻符号化できるようになります。
これが、音韻符号化の自動化です。
その結果、単語の意味をスピーディーに引き出すことが可能になります。
特に馴染みのない複雑な単語では、まず発音すること自体が大変なため、発音すること多くの脳のリソースが取られます。ですが、くり返し発音して練習することで、音韻符号化が自動化され、素早くかつ楽に単語の意味にアクセスがしやすくなっていきます。
このメリットについて、門田(2015)は以下のように述べています。
音読により積極的に明確に意識した形で訓練することで、ディコーディング全体の自動化が可能になります。つまり、リーディングの理解過程に多くの認知資源を割り振り、それに集中できる状況 [中略] を作り上げることができるのです。
(p.152)
なお、ディコーディングとは、①単語認知と②音韻符号化のことを指します。
また「つまり…」以降の内容は、さっき確認した、

↑この内容のことを指しています。
音読はこの状態を作り出せ、リーディング力に非常に効果的と言えます。
理由2:英文中の言語材料が、長期記憶に蓄積されるから。
音読の練習自体が、大量の英文インプットにくり返し触れる、という絶好の機会になります。
音読をくり返すことで、文中に出てくる言語項目を頭が何度もを処理をします。するとその中に含まれている言語項目や、文の意味処理のために行った手順が、長期記憶に蓄積(内在化)していきます。
例えば以下のようなものです。
・コロケーション(どの単語とどの単語がよく一緒に使われるかといった知識)
・イディオムのような決まり文句
・文構造や文法パターンを瞬時に見抜く力
・どんな順番で情報が展開されるかといった、文章構成のパターンに関する知識
etc.
言語習得はいつの間にか起きる部分も多い
人は、特に誰かから習った、本などで意識的に覚えようとしたわけでもないのに、いつのまにか身につけている知識やスキルがあります。
大量の英語のインプットに触れている中で、英語を運用していたらいつの間にか知識やスキルが蓄積されている、このようなタイプの学習は潜在学習(Implicit learning)と呼ばれます。
音読は学習法・練習法の1つであると同時に、
でもあります。
純粋に、目の前の文章を「理解しよう」と取り組めば、そこに含まれる語彙や文法などパターンが、少しずつ知識として蓄積されていきます。
大量に音読を繰り返すことが、このような言語知識を得る機会にもなると考えられます。
日本人にとっての音読の必要性
最後に少し、これにもついて触れておきます。
特に日本人にとっては、これまで見てきたような、鍛えたい言語処理に意図的に負荷を掛けたり、積極的にくり返しインプット量を増やしていくといった、音読系の練習が必要です。
日本では、普段の生活でほとんど英語でコミュニケーションをする必要性や機会がありません。
そのため、自然に習得を待つのではなく、いかに短い練習時間を有効に使い鍛えたい筋肉を鍛えるか、自分でそのような機会をどう意図的に作って行くか、がとても重要です。
日本で普通に生活していたら、知識が自動化されることはありません。
今回見たような音読のメリットをしっかりと活用し、しっかり鍛えるべき筋肉(脳の処理力)を鍛え、英語習得を加速させていきましょう。
まとめ
- 音読は、音韻符号化の自動化につながり、リーディングの単語の意味認識速度が上がる。
- 音読自体が、インプットに大量に触れる機会となり、あらゆる言語項目や処理が潜在学習される。これも自動的に使える知識に。
- 結果、自動的にこなせることが増え脳に余裕が増える。
- リーディングとリスニング時には、本来の目的である「理解」の方に集中しやすくなる
という内容でした。
さいごに、上記のような効果が得られるのは、正しいやり方で取り組んだ場合のみとなります。ただ機会的に声を出しているだけでは、効果は得られません。
また実際に音読をする際の具体的な注意ポイントについては、以下に網羅的にまとめています。
英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】
英語の音読について、網羅的に理解するためのまとめ記事です。音読についての基礎知識〜実際に練習するにあたっての技術的なテクニック論まで、計15を超える記事で解説。音読について幅広く理解し、練習の密度を最大限上げて行きたい方はぜひチェックください。
よければ参考ください。
おわり
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【参考文献】
Grabe, W. 2009. Reading in a second language: moving from theory to practice. Cambridge: Cambridge University Press.
Grabe, W. and Stoller, F. L. 2011. Teaching and researching reading. 2nd ed. New York: Routledge.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.