英語音読で暗記が目的になっている人は要注意【学習の進め方も解説】
今日はこのような疑問に答えます。
はじめに結論を書くと、もし音読で文章の丸暗記が中心のになっている場合は、学習の効果がうまく上がらない可能性がある、という内容です。
この記事を読むことで、なぜ音読で丸暗記がNGなのか、暗記にならないように気をつけてどのように音読を進めていけばいいかを理解できます。
本記事の内容
- 音読で暗記を目的に行うのがNGな3つの理由
- どのように練習を進めていくべきか
それでは行きましょう。
英語音読で暗記を目的に行うのがNGな3つの理由

理由としては、以下の3つです。
- 理由①:汎用性の低い知識が身についてしまう
- 理由②:口が覚えるだけの練習になってしまう
- 理由③:機械的な作業で継続が難しくなる
どういうことか順番に見て行きましょう。
理由①:汎用性の低い知識が身についてしまう
音読の文章を苦労して丸暗記したとしても、その知識をそのまま活かせる場面はほとんどありません。
一字一句丸覚えしてストックした知識というのは、表現が固定化してしまっているため、他の場面でなかなか活用しずらいからです。
例えば、以下のような英文。
この文章を意味とともに丸暗記したとして、将来的にリーディングで全く同じ文章を読むことはほぼないでしょう。
また暗記したこの文章を、会話や作文の場面でそのまま話す、書くということも、ほとんど機会としてはない思います。
このように丸暗記で得た知識は、その後使える場面が限られてしまいます。この意味で、非常に汎用性の低い知識と言えるでしょう。
理由②:口が覚えるだけの練習になってしまう
暗記を目的にしてしまうと、意味内容はとは関係なく「ただ口が覚さえすればOK」という練習になってしまう可能性があります。
これでは、ただ「音の羅列」を口にしているだけで、その「英文の内容」とは全く関係なく練習をしているようなかたちになってしまいます。
結果、リーディングを行うのに必要な脳内処理にほとんど取り組んでいないような状態で、音読してしまうようになります。
「リーディングに必要な脳内処理」とは、例えば以下のようなものです。
- 音韻符号化 → 目にした文字を、頭の中で音声化する処理
- 単語認知 → 目で単語を認識し、長期記憶からその単語の意味などの情報を引き出してくる処理
- 文法処理 → 並んでいる単語に対し文法的な解析をし、文構造のパターンなどを見出す処理
- 意味処理 → 上記2つの情報をもとに、節や1文全体としてどんな意味なるかを見出す処理
(↑より詳しくは、【仕組みから理解】理想の英語リーディング力とは?もご覧ください。)
もし単語・文法・意味内容などを全く意識せず、ただ声を出して読んだだけの場合は、上記4つの処理のうち、主に音声符号化にしか取り組んでいない状態と言えます。
使わない処理は鍛えることはできない。
頭で行わない処理、使わないスキルは鍛えられることはありません。
例えば、先ほどの例文。
もしvirus やcauseといった単語の意味を全く想像せず、ただひたすら音として /vάɪrəs/ や /kˈɔːz/ と口にしたとしても、他の文で同じ単語を見たときに、その文字列からパッと意味まで引き出せるようにはならないでしょう。
また文構造についても考えてみましょう。
この文には、
という語順と、それに伴う意味が込められています。
もしこのようなパターンを全く無視し、ただ単語を左→右に字面だけ読み上げただけでは、いくら繰り返してもこの文構造的な処理、それに伴う意味処理が鍛えられることはありません。
結果、いざ他の文で同じ cause を含む文に出会ったとしても、素早くその構造を解析し文意を見出せるようになる、ということは期待できないでしょう。
このように、意味もわかってないものを読み続け、ただ目から口に英文をくぐらせただけで、力がつくことはありません。
私たちは、実際に「やったこと、処理したこと」を学習します。[中略] 「やっていないこと、処理していないこと」は、学習も記憶形成もできません。
(門田, 2012, p. 318)
理由③:機械的な作業で継続が難しくなる
ただ覚えればOKという練習は、機械的な繰り返し作業になりがちで、面白くないものとなってしまいます。
例えば理由②のような、意味を伴わないただ声を出すだけの行為は、単調なものになりがちです。
英語というよりも、無味乾燥な記号に触れているような感覚になってしまいます(お経を読み上げている状態に近いような状態です)。
結果、継続も難しくなってしまい、途中で練習をやめてしまう場合も多いと思います。
どのように練習を進めていくべきか

では、このような丸暗記によるデメリットを避けるには、どのように音読を取り組んでいけばいいのでしょうか?
これについて、大切な視点としては、
ということです。
そもそも今頑張って学習しているのは、今後日常生活や試験などで出会うあらゆる英文を、難なく理解しながら読み進められるようになるためだと思います。
そしてそこで想定している英文とは、一度も読んだことがない初めて目にするもののはずです。
将来、初めて目にする文章でも難なく理解して読み進めるためには、そこで必要とされるのと同じような脳内処理を、今やっている練習の中でも取り組み、しっかり経験しておくことが重要です。
例えば野球選手は、ゴルフでボールを遠くに飛ばすときもある面で有利と言われます。
これは、ゴルフボールを打つときの下半身の使い方や身体の回転が、野球でボールを遠くに飛ばすための動作と共通する部分があるからです。
野球で普段からそういった動きをしっかり取り組んでおり、そのスキルがゴルフボールを打つときにも自然と活用されているからです。
(もちろんそもそも種目が違うので、マイナスに働く動作もあると思われますが。)
英語の練習においても同じです。
このような学習の原則を、認知心理学では、
transfer-appropriate processing
= 転移適切処理DeKeyser(2007, p.6; 訳 松田)
と呼び、言語学習でも重要な側面の1つであるとされています。
ではこのようなスキルや処理の「転移」が起きるようにするには、具体的に普段の音読をどのように取り組めばいいのでしょうか。
ポイントは以下の2つです。
- ポイント①:意味内容を理解しながら音読する。
- ポイント②:英語表現は「小さな単位」で暗記する。
順番に解説します。
ポイント①:意味内容を理解しながら音読する。
まず音読に取り組む際の大前提として、大変重要な点です。
初見の英文をリーディングする場面では、「目にした英文からその意味内容を瞬時につかみながら読み進める」はずです。
普段の音読練習から、ただ文章を暗記するのではなく、意味内容をつかみながら読み進めるということが大事です。それによって、初見の文章でも、事前に音読で練習したスキルが転移しやすくなります。
より具体的に見てみましょう。
先ほどの、
という文で、意味内容もしっかり理解しながら音読に取り組んだとします。
意味内容を理解しながら読めば、当然、前半の「理由②」でも触れた、
といった脳内の情報処理に取り組むことになります。
例えば、単語認知に関して言えば、音読するときに virus や cause を見て「そのスペルに対応する意味を想起する」という処理に何度も取り組むかたちになります。
もしこのような処理をスピードも意識しながら繰り返し取り組むと、将来、別の文章でその単語が使われているのを目にしたときも、その意味が瞬時に想起されやすくなります。
文法(文構造)処理も、causeが取っている語順、
を音読時にきちんと認識し、そこから正確に意味理解するよう繰り返し取り組んでいれば、将来、全く別の文章中で、
のような文を目にしても、頭で同じような文法処理を行い、意味を理解することができます。
(なお、繰り返し同じ処理に取り組み、それが素早く無意識的にできるようになることを「自動化」と言います。自動化は言語習得に欠かせない重要な側面です。» 参考:英語のスピードについていけない。←『スキルの自動化』が鍵です。)
※コツ:毎回初見のつもりで音読する。
音読は、同じ文章を何度も繰り返し読みますが「毎回初見のつもりで読む」というのがコツです。
これは毎回の音読を、「さっき読んで暗記した内容をただ思い出す」という作業にならないようにするためです。
例えば、
の文を繰り返し音読していて、この文章の内容を覚えてしまい、読んでいる最中に、
・まだSome people say を読んでいるときに、その後のthat節の内容が思い浮かんでしまう
etc.
などといったようなことです。
これだと、文字情報として目にした文から単語・文法処理・意味処理 → 理解としているのではなく、ただ単にさっき暗記した内容を思い出しているだけ、という頭の使い方になってしまいます。
もちろん同じ文章を繰り返すので、ある程度自然に覚えてしまうのは問題ありません。
ただし、
- あくまで目の前の文字情報を起点に、きちんと単語・文法・意味処理を施して内容理解まで行う
- その過程を何度もくり返すことで、自動化していく
ということが大事です。
「インプット言語を処理してはじめて習得が可能になる [中略] 処理なしに習得はありえない
(門田, 2012, p.319)
暗記したものを思い出すのではなく、毎回自分の目の前の英文から、意味内容を引き出してくるように練習していきましょう。
※ただし、負荷がかかり過ぎる場合は調整を。
特に初めて取り組む文章では、情報処理を行っているワーキングメモリに負荷がかかり過ぎてしまい、
といったことを、同時に行うのが困難な場合があります。
その場合は、戦略的に「はじめは意味を考えず声だけ出す」というのも手です。
繰り返す中で、文字を音声化する処理が自動化してくれば、その分余裕ができ、意味へのフォーカスもしやすくなります。段階的に、意味内容に注意できるようにしていきましょう。
この点については、以下の記事も合わせて参考ください。
英語の音読って大変… 黙読じゃダメですか?
英語音読で、声を出す意味がわからない、声を出すとうまくできないという方向けです。声を出す分負荷がかかり音読は大変です。本記事では、そもそもなぜ声を出す意味があるのか、どのようにうまく練習をして行けばいいかを解説。音読のメリットを最大限活かし、流暢な英語理解スキルを得たい方は必見です。
ポイント②:英語表現は「小さな単位」で暗記する。
ポイントの2つ目です。
ここまで暗記について否定的に書いてましたが、暗記を全て否定しているわけではありません。
暗記で身につけるもので、英語の運用に役立つ知識も間違いなくあります。
いろんな文章で目にすることが多い「決まり文句的な固定表現」や「コロケーション」などがそれにあたります。
例えば、以下の下線を引いているような表現です。
このように文章丸ごとではなく、より小さな範囲のもので、頻出の表現であれば、その後、他のいろんな文章を読むときも活用できる、汎用性が高い知識と言えます。
固定表現は英文の処理スピードを上げる。
このような固定表現をストックしていく最大のメリットは、スピードです。
例えば、
という表現を、理解もしくは、書いたり話したりする際に、いちいち
V → say
O → that …
などと、バラバラなものを1から組み立てるように捉えていたのでは、時間がかかります。
しかし【Some people say that】を、これ丸ごとで1つの固定表現として覚えてしまえば、あとはこのカタマリをそのまま思い出して使うだけで、4単語分の言語処理を一気に行うことができます。
このようにバラバラだった情報を、より扱いやすいよう大きな1個のものとして扱うことを「チャンキング」と言います。
すでに出来上がったカタマリの表現を駆使することも、言語習得では非常に重要な戦略の1つです。
The main advantage of chunking is reduced processing time. That is, speed.
(チャンキングの主な利点は、処理時間の短縮。つまり、スピードである。)(Nation, 2001; 訳 松田)
理由①でも書いたように、文章丸ごとで暗記した知識は、なかなか他の場面で使うことができません。
ですが、それよりも小さい単位で、かつ頻出する表現については、固定表現として暗記する価値があり、言語運用のパフォーマンスを支えてくれる助けにもなります。
まとめ

以上、今回は、
- 音読では、文章を丸ごと暗記はNG
- 他の初見の英文章を読むときでも活用できるようなスキルを身につけるべし
という内容でした。
音読は暗記することが重要なのではなく、結果として暗記してしまうくらい深くその英文を使って練習していく、ということが大事です。
練習でのprocessを大事に、効果がしっかり上がるよう練習に取り組んでいきましょう。
なお、音読の練習密度を上げるため、本記事で紹介した以外の練習テクニックについても詳しく知りたい方は、以下も合わせて参考ください。
» 英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】
おわり
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【参考文献】
DeKeyser, R. M. 2007. Introduction: Situating the concept of practice. In R. M. DeKeyser, ed. Practice in a second language: perspectives from applied linguistics and cognitive psychology. Cambridge: Cambridge University Press, pp.1-18.
Nation, P. 2001. Learning vocabulary in another language. Cambridge: Cambridge University Press.
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.