英語の音読って大変… 黙読じゃダメ?【具体的な練習法も解説】
それでも黙読ではなく音読でやった方がいいの?
なんで?
今日はこんな疑問に答えます。
本記事の内容
- 英語の音読って大変… 黙読じゃダメですか?
- 音読で声を出すことの本当の意味
- 黙読よりも難易度が高い音読を、どのように練習していけばいいか?
本記事を読むことで、声に出して読むことにどんな意味があるのか、今後どのように練習していけばいいのかという方法も合わせて理解できます。
今回も主観だけに偏りすぎないよう、認知心理学や応用言語学など学術的な観点からも書いて行きたいと思います。
それでは行きましょう。
英語の音読って大変… やっぱり黙読じゃダメですか?

まず結論です。
上記の通りです。
そもそも声を出して読むのは負荷がかかる
「声を出すと大変..」と感じてしまうのは自然なことです。
これは声を出すことで、脳内での処理が1つ増え、負荷がかかっているからです。
ですが、この「負荷がかかっている」という事実を、どう捉えるかが重要です。負荷がかかることで「難しい..」と感じてしまうという反面、適切にトレーニングさえできれば、鍛えられる筋肉もあります。
では、音読を通して一体どんな脳内処理を鍛えることができるのか、詳しく見て行きましょう。
音読で、黙読ではなく、あえて「声を出す」ことの本当の意味
音読で「声を出す」という点について、その効果は以下のようになります。
声を出して読むメリット
- 「見た文字を脳内で音声化する」という処理に半ば強制的に取り組む。
- 何度もくり返すことで、その処理が自動化する。
- 結果、リーディングで一番の基礎となる「単語の意味想起」をスムーズにできるようになる。
上記の通りです。
英文を声に出して読むためには、当然、見た文字を頭の中で一度音声化しなければいけません(この脳内処理は「音韻符号化」と呼ばれます)。
くり返しの練習を通して音韻符号化がスムーズにできるようになることで、目にした単語の意味を素早く認識できるようになっていきます。
どういうことか、詳しく解説します。
単語の認知に必要な音韻符号化
目にした語を素早く音韻符号化できることは、その単語の意味をスピーディーに認識するために大切な条件の1つです。
これは、人間が目で見た単語の意味を認識しようとする際に、「一旦脳内で音に変えてから意味にアクセスする」という手順を踏んでいるためです(門田, 2015)。
音に変えて意味を想起する例
例えば、”coffee” という単語で見てみましょう。
文字で単語を目にしてから、意味を想起するまでの流れは以下のようになります。

上記の通りです。
細い矢印のように、文字から直接意味を想起する処理ルートも存在します。
ですが、太い矢印が示すように、
という処理の方が、人間が単語の意味を認識する際の自然なアクセスルートとして知られています。
このため、音韻符号化を難なく行えることは、素早い単語の意味想起のために重要な要素なのです。
音読 = 音韻符号化を自動化する練習
音読では、この音韻符号化という脳内処理に半ば強制的に取り組むことになります。
音読は「声に出して読む」ということが前提条件となっているからです。
特にはじめは、文字と音声との結びつきが弱く音声化に時間がかかってしまったり、集中しないとうまく発音できない、ということも起こります。
その分、音を出すことだけで頭がいっぱいになったりもするのですが、この負荷が大切です。
声に出して読む中で何度もこの音声化に取り組み、「音韻符号化を自動化」することが、音読の大きな目的の1つなのです。
流暢なリーディングを支える基礎スキル:ディコーディング
音読が「音韻符号化の自動化」に重要であることがわかりました。
ここからはもう少し視野を広げて、これがリーディング全体にどのように良い影響があるのかを見て行きましょう。
ここまで触れた、
・音韻符号化
・単語の意味想起
という一連の脳内処理は、学術的には「ディコーディング」と呼ばれています。
リーディング中、個々の単語の意味が瞬時に思い浮かぶことの重要性は容易にイメージできると思いますが、まさにディコーディングはその能力に関わっています。
リーディング全体から見た位置付けとしては以下です。
リーディングの脳内処理:文字を見て理解に至るまで

上記のように、リーディングは
- 単語レベルの処理
- 1文や節レベルでの意味処理
- 文章全体のレベルでの内容把握
といった脳内での処理が絡み合って「理解」へと進んで行きます。
» 参考:【仕組みから理解】理想の英語リーディング力とは?
そして、そのまず入り口となるのが、このディコーディングスキルです。
このスキルをスムーズにすることが、後続の文や文章レベルでの処理をうまく行かせるための、最も基本的な土台となります。
ただし脳内のリソースは限られている。
ですが、もしディコーディングに多くの脳のリソースが取られてしまうと、文や文章レベルでの情報処理をスムーズに行えません。
脳が言語処理を行っている「ワーキングメモリ」の容量には、限りがあるからです。
例えばリーディング中、
といった経験はないでしょうか?
これは、「単語を目で認識 → 音声化 → 意味想起」というディコーディングに、多くの脳内のリソースが取られてしまっているのが原因です。文や文章レベルの処理に使うリソースを、そこにほとんど全部使ってしまっているのです。
これでは「木を見て森を見ず」といった読み方になってしまい、リーディングの最終目的である「内容の理解」にまでうまく到達することができません。
結論:音読でディコーディングを無意識にできるよう自動化を!
ですが、音読で声を出し音韻符号化を十分自動化させることで、リーディング中、ディコーディングにかかる負荷を抑えた上で、スムーズに読み進めることが可能です。
特にはじめは、慣れない単語が多い文などスムーズに声に出して読むことが難しいかもしれません。音韻符号化に多くの負荷がかかってしまい、文章の内容も思い浮かべながら読むのは大変だと思います。
ただ、先も述べたようにこの「負荷」がとても大事です。
声に出して読むことで、音韻符号化を自動化し、ディコーディング過程を「無意識」でこなせるほどに鍛えて行きましょう。それによって、文や文章全体のレベルでの内容理解にもしっかり集中できるようになって行きます。
とはいえ、音読って大変。。
ですが、「頑張って声も出そうとすると頭がいっぱいいっぱい。文意を考えるどころじゃないけど、それでいいの?」という疑問もあると思います。
確かにゴールとしては、声を出すだけではなく文意も掴みつつ読める、という両立した状態を目指すべきです。それによって、
などにも脳が取り組み、そこも鍛えられ自動化していくからです。
なのでそこに上手く到達するには、「意図的に脳にかかる負荷を調整しつつ、ワーキングメモリがキャパオーバーにならないようにうまく練習していく」ということが重要です。
では実際にどのように音読を練習していけばいいか、具体的に見て行きましょう。
黙読よりも難易度が高い音読を、どのように練習すればいいか?
音読で最も大事なことは、「脳にかかる負荷を段階的に増やしながら進める」ということです。
以下、具体的な方法を見て行きましょう。
小原(2010)は、音読練習を以下の3段階に分けて提案しています。
- ①初級の音読:文字 → 音への変換を目的とした音読
- ②中級の音読:文字 → 音への変換を高速化 & 理解のための音読
- ③上級の音読:モデル音並みのスピードや暗唱なども伴う音読
以上のようになります。
日々の音読としては、まず①から始め、一旦②までをできるように目指すのが良いかと思います。
以下では①②にフォーカスし、より詳しく解説します。
①初級:文字 → 音への変換を目的とした音読
選択と集中がカギです。
この段階ではとにかく、「スムーズに発音できる」ということをまず目指しましょう。
「内容を理解しながらでなくていいの?」と感じるかもしれませんが、一先ずこの段階では大丈夫です。
音読ができるということは,この段階 [文字→音への変換] が確実にできるということが条件である。
(小原、 2010, p.33)
まずは「発音が正確かつスムーズできる」と言うことを第一目的にしっかり固めて行きましょう。
くり返していると、徐々にスムーズに発音できるようになり、頭に余裕も生まれてきます。モデル音源なども参考に、正しくスムーズに発音できるようにして行きましょう。
②中級:文字 → 音への変換を高速化&理解のための音読
ある程度、「文字 → 音への変換」が余裕を持ってできるようになってきたら、さらにスピードを上げよりスムーズに発音できるよういして行きます。
そしてこの段階で少しずつ、文章の意味内容にも意識を向けていきましょう。
それにより、単語の意味認識や文構造・文法の処理、意味処理などが鍛えられ、自動化していきます。
黙読やボソボソを入れるのもあり
①「発音だけを意識した音読」から②「意味内容も意識した音読」へと移る段階で、一旦声をボソボソ発音にしてみる、というのも1つの手です。
これにより、発音に消費されるリソースが減りますので、意味内容の方により集中しやすくなります。
- ▽ 発音のみ意識して音読
- ▽ ボソボソで発音 × 意味も意識
- ▽ 普通に発音 × 意味も意識
このように負荷を段階的に上げながら、発音と意味の両立を目指しましょう。
英語の語順で直読直解
またこの中級の音読では、英語の語順で左→右に順に意味内容をつかんでいく、ということも重要な点になってきます。
特に、これまで英文を日本語に訳して理解してきたという方、後ろから前に返って読む「返り読み」が基本だったという方は、スムーズに理解しながら読み進めることが難しい場合が多いです。
このような点については、過去記事で取り上げていますので、合わせてご覧ください。
- 和訳する問題点 → 英語の音読中、脳内で和訳はOK?【直読直解のコツも解説】
- 英語の語順で理解する方法について → スラッシュリーディングの効果とは?【英文を効率的にさばく!】
まとめ
今回は以上です。
- 音読練習では、声は出した方がいい
- その理由: 「文字見る → 音声化 → 意味想起」という処理を自動化できるから
- ただし、負荷が上がりすぎないよう調整しつつ音読を進めることが重要
- まずは音に特化した音読
- 自動化してきたら、意味理解も伴う音読へ
といった内容でした。
冒頭で書いたように、声を出すことで黙読よりも負荷がかかります。
ですが筋トレと一緒です。負荷がかかるからこそ、それを繰り返すと筋力がついて行きます。
認知負荷の高い学習を継続することで、その学習者の能力は確実に上がってきます(人は誰でも一生懸命やったことは忘れないのと同じことです)。
(門田, 2007, p.221)
うまく負荷の調整もしつつ、音読のメリットを最大限活かせてるようにして行きましょう。
なお、音読の練習密度を上げるため、本記事で紹介した以外の練習テクニックについても詳しく知りたい方は、以下も合わせて参考ください。
» 英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】
おわり
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【参考文献】
門田修平. 2007. 『シャドーイングと音読の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.
小原弥生. 2010. 中学校の英語教育における音読の種類・目的・使用法:段階別の分類をふまえて.『言語教育研究』, 1, pp. 31-42.