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シャドーイングと発音記号【使うはOK、使わされるはNG】

シャドーイング

Illustration by Icons8

シャドーイングって、発音記号も調べながらやった方が良い?
やっぱり発音記号を知らないと、やっても意味ないんだろうか…?

今日はこんな疑問に答えます。

発音記号は便利なツールです。
うまく活用できると、発音の矯正や音の聴き取り力にも繋がります。

ただし、あまり「発音記号だけ」にこだわり過ぎると、かえって練習の方向性を見失ってしまうこともあります。

今回は、シャドーイングにおいて「発音記号とどう付き合っていけば良いか」について書いて行きたいと思います。

本記事の内容

  • シャドーイングで発音記号を使うメリットや利用法
  • ただし発音記号がすべてではない話

では行きましょう。

シャドーイングで発音記号を使うメリットや利用法

まずはメリットです。
発音記号も上手く使うことで、「音の聴き取りの精度」をより高いレベルで磨いていくことができます。

発音記号の役割

普段は気づけない「自分の発音 ⇄ 英語本来の発音」のGAPに気づける。

これが発音記号を使うメリットです。

英語を学習していると、いつの間にか不正確に覚えてしまっている発音はよくあります。
そして、なかなかそれに気づくことができません。

例えば以下のようなものです。

間違っていることに気づきにくい例

son(息子)
【誤】ソン → 【正】/sʌn/ *サンに近い。
cupboard(食器棚)
【誤】カップボード → 【正】/kʌbɚd/ *pは発音しない。
allow (許す)
【誤】アロウ → 【正】/əlάʊ/ *アラウに近い。

これらは、それまでリーディングが主でスペルだけを頼りにしているために、違う音を記憶してしまっているケースです。

他にも、日本語にカタカナ語として存在しているために、その読みのまま覚えてしまっているものもあります。例えば以下です。

label(ラベル)
【誤】ラベル → 【正】/léɪbl/ *レィボゥに近い。
receipt(レシート)
【誤】レシート → 【正】/rɪsíːt/ *リスィートに近い。
beverage(飲料)
【誤】ビバレッジ → 【正】/bévrɪdʒ/ *ベヴリジに近い。

また他にも、そもそも日本語では区別が存在しない音もあります。

right と lightの違い(/r/と/l/の違い)
think と sinkの違い(/θ/と/s/の違い)
etc.

こういったものも、混同して覚えてしまっていることが多々あります。

発音記号は、このような細かな音の違いまで確認するのに役立ちます。

正しい発音を確認 → シャドーイングで自動化

ですが、もちろん正しい発音を「知っている」だけでは不十分です。
あとは、実際のパフォーマンスで「使える」状態に変えていかないといけません。

つまり「知識をスキルに変える」ということです。

正しい発音を意識しつつ、シャドーイングで繰り返し練習していくことが大切です。

練習の手順

  • ▽ 怪しい単語は正しい発音を確認(←発音記号を利用)
  • ▽ まずは自分の口で何度か発音してみる
  • ▽ 音源も聴いて、耳でも確認
  • ▽ シャドーイングでその発音を意識して練習
  • ▽ 楽にこなせる(自動化する)まで繰り返していく

例えば上記のような流れです。

このような過程を通して、もともと頭にストックされていた不正確な発音知識が、ネイティブ本来の音声に近いものへと少しずつ書き換えられて行きます。

言い換えると、「自分が覚えている音 ⇄ 実際の英語音」のGAPが小さくなっている状態です。

そこまでできると、いざリスニングでも、聴いた音から単語を瞬時に認識しやすくなって行きます。

例えば以下のような単語も、カタカナ音ではなく英語本来の音として覚えているため、認識がしやすくなります。

/kʌbɚd/ と耳にする → “capboard” だ!と瞬時に認識
/əlάʊ/ と耳にする → “allow”だ!と瞬時に認識

一方、不正確な発音のままだった場合..

普段、何気なく英語を聞いているだけでは、自分の音声知識の違いに気づいたり、修正されずらいという面があります。

特に何も意識せずシャドーイングをしても、もともとの音の感覚のままで音を聞くこととなり、自分の口で出す音もそのまま不正確なものになってしまいがちです。

これでは、正しい発音や音声の知識を身につけずらくなってしまいます。
なかなか「自分が覚えている音 ⇄ 実際の英語音」のGAPも埋めることができないでしょう。

まとめ:発音記号で、正しい発音を意識化して練習。

発音記号を確認 → 正しい発音に気づく → それを意識してシャドーイング → 新しい音声知識が定着

発音記号も用いることで、このような流れをつくりやすくなります。
普段は気づきにくい発音の不正確さもハッキリと自覚しつつ、それを埋めていくかたち練習していくことが可能です。

第二言語習得研究では、「この音はこういうように発音する」「この文法はこう使う」などと言葉を介した説明から身につくような知識を「明示的知識」と言います。

今回の例で言うと、発音記号で正しい発音でチェックすることがこれに当たります。

ただ英語を使っているだけでは、自分のパフォーマンスが合っているのかどうかは、なかなか気づきにくいものです。

明示的知識を身につけた上での意識的な学習は、普段聞いているだけではなかなか気づかない言語的な側面にも学習者を気づかせ、言語の習得を促してくれます(白井, 2012)。

自分の発音や音声知識のどこに不足があるのか、そのような気づきを得やすくするために、発音記号は良いツールになります。

ただし発音記号がすべてじゃない話

以上のように、発音記号の利用は有益です。
ですが一方で、それだけに縛られ過ぎないようにすることも大切です。

自分はまだ発音が下手だし..
発音記号とか完璧にしてないと、シャドーイングしても意味がないのでは?

例えば上記です。

あまりに「発音がすべてだ!」とシャドーイングなど音声系の練習を敬遠し過ぎてしまうと、思いがけない学習機会のロスや、遠回りにもなってしまいます。

これは非常に勿体無いことだと思います。

知識として知らなくても、学べることはたくさんある!

たとえば、水泳スキルを学ぶ場合で考えてみましょう。

手・足の動かし方や、息継ぎの仕方、ターンの技術などあらゆる細かいスキルに関して、机の上で長時間説明を受けて学んでいくというスタイルは、あまり考えられないと思います。

普通は最低限の説明を受けたら、

「あとはとりあえず水の中でやってみなはれ!またやりながらアドバイスするからさ。」

と実際に泳ぐ中でスキルを身につけていくと思います。

このように「理屈で知らなくても、できることはある」というのは英語でも同じです。

シャドーイングは、「モデル音を聴く → それを真似する」ことを繰り返すことで、リスニングの際の音の聴き取り能力を上げていく練習です。

「聴く→真似する」ということが練習のコアであり、それが実践できるのでれば「発音記号を知っているかどうか」ということは、究極的には問題ではありません。

極端な例ですが、仮に「発音記号」についてまったく触れてきてない人でも、「練習で聴いて真似できる音」というのは必ずあるはずです。その繰り返しを通して磨かれる音の感覚やスキルはあるはずです。

この意味で、発音記号を知ることだけに、がんじがらめにならないことが大切です。

発音記号だけではカバーできない音がある。

これも事実です。

実際の会話は、一単語だけで完結することは稀です。
基本、文や文章単位で会話は進んで行きます。その中で、様々な音声的特徴が新たに出てきます。

例1:音声変化

音声変化」は、その1つです。

たとえば、got a … という表現は、発音記号では /gάt/ と /ə/です。
ですが、いわゆるリエゾン(連結)やフラッピング(弾音化)を起こし /gάlə/(ガラ)のような発音に変わります。

同じように、at the department は /ət/ と /ðə/ と /dɪpάɚtmənt/ です。
ですがこれも、リダクション(脱落)という現象で /əðədɪpάɚmən/ (アッダディパーッメンッ)のように3つの「t」が消えて発音されます。

これらは、流暢に英語をしゃべる中で口の動きが省エネ化し、発音されることで起きる現象です。

例2:リズム

また英語ならではの「リズム」もあります。

He got a lot of clothes at the department.

動詞や名詞などしっかりとした意味を持つ主要な語は「内容語」と呼ばれます。これらの語は、上記の下線部のようにストレスが置かれます。

英語は “stress-timed rhythm” と呼ばれ、それぞれのストレスは時間的にほぼ等間隔で発音されます。
一方、その間にくる前置詞や冠詞などの「機能語」は圧縮され、かなり短く弱く発音されます。

このようなことが生じ、英語ならではの強弱のリズムが形づくられます。

他にも、

・イントネーション
・意味の切れ目に頻繁に置かれる、ちょっとした間合い
etc.

などといったものも、英語音声の特徴としてあげられます。

このような単語の範囲を超えた、文・文章レベルでの音声的な特徴は「プロソディー(韻律)」と呼ばれます。

シャドーイングで、プロソディーもマネして身につける。

応用言語学者の門田(2015)は、このような側面もリスニングに影響を与える大きな要因の1つであり、シャドーイングを通して鍛えていくことが重要であると指摘しています。

仮に発音記号をマスターし、それぞれの単語を1つずつ完璧に発音できたとしても、それがすべてではありません。

シャドーイングは難易度の高い練習ですが、ある程度練習がかたちになるのであれば積極的に取り組んで行き、このようなプロソディー面にも慣れていくことが大切です。

結論:発音記号は使っても、使われない!

以上のように、1単語ずつの狭いフォーカスのみとなってしまうのは、学習として非効率となってしまいます。

もちろん「個々の単語の発音がまったく重要ではない」ということではありません。前半で書いたように、発音記号で正しい発音を再確認しつつ、シャドーイングなどで自動化していくことも大切な要素です。

ただ、毎回のシャドーイングで、あまりたくさんの単語について発音記号を調べないといけない状況だと、練習の効率も悪くなってしまいます。

単語だけ、発音記号だけにとらわれず、より広い視野で練習を進めていくことが大切です。

単語の発音は、日々の積み上げが鍵

個々の単語の発音については、普段から単語学習をするときに覚えて行きましょう。
発音記号も確認し、また自分の口でも発音しつつ、「意味×スペル×発音をセットで覚える」ということが大切です。

また、リーディングなどで「この単語の発音、怪しいな..」と思うものについては、その都度辞書などを引いて確認するということも習慣にしておきましょう。

このようにコツコツ身につけておくことで、シャドーイング中は、

  • 音声記号を調べる作業が最小で済む
  • 調べる作業よりも、練習自体に集中できる
  • プロソディー面にもフォーカスできる

といったかたちで進めやすくなっていきます。

正しい単語の発音&発音記号は、日頃から積み上げておくが吉です。

まとめ

今回は、シャドーイングでの、発音記号とのうまい付き合い方でした。

発音記号はそれ自体が目的にはなり得ませんが、うまく使えればとても便利なツールです。

シャドーイングの目的に沿わせながら、その強みをうまく活かしていけるようにしましょう。

おわり


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【参考文献】
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.

白井恭弘. 2012. 『英語教師のための第二言語習得論入門』 東京:大修館書店.