シャドーイングって疲れるけど、それでいいの?【対策も解説】
Illustration by Aleksey Chizhikov from Icons8
毎回しんどいけど、続けてればちゃんと力はつくの?
今日はこんな疑問に答えます。
確かにシャドーイングはとても負荷が高い練習です。
率直なところ、やってて疲れます、しんどいです。
ですが、ある意味でそう感じられるのは「きちんと上達への道筋を進めている」ということでもあり、実はそう感じられていること自体、アドバンテージでもあります。
今回は、「シャドーイングは疲れる..」という問題について深掘りし、それが学習にどういう影響を及ぼしているのかを解説して行きます。
また、後半では「とはいえ疲れるし、どう学習を進めていけばいいの?」といった疑問にも答えて行きたいと思います。
本記事の内容
- 1. シャドーイングって疲れるけど、それでいいの?
- 2. うまく負荷を調整しながら進めていく方法
なお、過去に私が大学院で英語教授法(TESOL)を学んでいました。今回も主観により過ぎないよう、学術的な文献等も参考にしつつ、書いて行きたいと思います。
普段の練習を、少しでも迷いなく進めていけるようになっていただければ嬉しいです。
では行きましょう。
1. シャドーイングって疲れるけど、それでいいの?

まず結論として、シャドーイングが「疲れる」「しんどい」というのは、自然なことだと思います。
理由としては以下です。
もしシャドーイングを通して、適切に負荷を感じられている場合は、その調子で続けていると力が伸びていく可能性が高いと言えます。
どういうことか、詳しく説明します。
そもそもシャドーイングはしんどい作業 ←同感です。
シャドーイングは、聴いた音を2, 3語遅らせつつそのまま復唱していく、という練習法です。
その中では「聞いた発音をそのままマネして言う」ということが学習者のミッションとなります。これをうまく実行するには、学習者は以下のようなことを頭の中でこなしていかなければいけません。
- ①:入ってくる音に、注意深く耳を傾ける。
- ②:音を照合(耳にした音をきっかけに、自分の長期記憶内にある音声知識を高速で検索。頭の中でマッチさせる。)
- ③:②で「こんな音だっ!」と認識できた音声を、口で素早くかつ正確に再現していく。
(上記は、応用言語学者門田(2015)の著書を参考にしています。)
このようにシャドーイングでは、英語が流れている間①〜③をひたすらやり続けていく必要があります。
モデル音に置いて行かれないよう、着いていく必要もあります。
数語だけならまだしも、ある程度の長い文章で、こういったことをこなしていかないといけません。
英語の音に慣れてないほど負荷は上がる。
また、特に②については、音声について初学者であるほど、照合作業に時間がかかり大変になります。
特に初学者ほど、この手の「ずれ」は大きいため、シャドーイング中、検索に多くの頭のリソースが割かれてしまいます。常に集中してないと、聞こえてくる音を正確に認識できないような状況です。
検索作業に手間取る一方で、次から次へとどんどんと流れてくる英文を、休まずさばいていかないといけません。
ある意味で「疲れる…」と思ってしまうのは、当然とも言えます。
そのしんどさが、どう成長に結びつくのか?
ですが、このある種「しんどさ」や「疲れ」を感じていることが、シャドーイングではとても大切だったりします。
結果、「耳にしたものを口に出す」ということが、苦もなくスムーズにできるようになります。
この一連のプロセスは「音声知覚の自動化」と呼ばれます。
門田(2015)は、この段階にまでなると、自分の頭の中にあった音声知識もネイティブの音声に近いものに変わり、リスニング時の音の聴き取りが、苦もなくできる状態に近づくとしています。
(このような「音声知覚」は、リスニングの土台を支える重要な役割を担っています。詳しくは、シャドーイングの効果とは?【リスニングにどう効くかも解説】も参考ください。)
このまま続けてて大丈夫?
結論、大丈夫です。
もし、シャドーイング中、
と言うことを適切に取り組めていれば、ここまで見てきた、音声知覚に関わる脳内の処理を行えていると言えます。
「疲れる」「しんどい」と感じているのは、上記のような脳内処理にしっかり取り組んでいるからこその結果ではないかと思います。
※もし上記2点にうまく取り組めていない場合は、シャドーイングの難易度が合ってない可能性があります。その場合はなかなか効果が見込めない可能性があるため、意図的にレベルを調整するようにしましょう。» 参考:シャドーイングが難しくてできない【そう感じる時に考えるべきこと】
練習を通して、少しずつ楽にできていく感覚を得られるように。
言語を扱う脳内処理を鍛えるのは、ある意味で「筋トレ」と同じです。
シャドーイングでも同じです。
脳内の言語処理についても、「何度も繰り返し取り組む」ことにより、自動化が促されると言語習得の研究では言われています(村野井, 2006)。
最初は負担がかかって大変な音声知覚も、頑張って何度も取り組むことで処理の回路が自動化されて行き、日を追って少しずつ楽になって行きます。
もしシャドーイングを苦もなくこなせるレベルまでなれば、重い鉄アレイがヒョイと持ち上がるように、リスニング中も耳と頭が音に対して勝手に反応し、楽に音を拾えるようになって行きます。
疲れるために練習すると言うわけではないですが、「練習中、適度な負荷を感じつつ鍛えていく」ということは、上達のために必要なプロセスです。
このようなことを目指し、練習を進めて行きましょう。
2. うまく負荷を調整しながら進める方法

って言ってもやっぱり疲れるし、忙しい中続けるのも大変…
このようなことも、正直悩みどころではないかと思います。
なのでここからは、練習の負担をうまく調整しつつ、学習を進める方法を紹介したいと思います。対策としては以下の2つです。
- ① 短時間で練習する。
- ② 同じスクリプトを数日は継続する。
①短時間で練習する。
シャドーイングは、長距離というよりも短距離走の練習です。
1回1回の練習で集中力を必要とするので、特にはじめは、あまり長時間練習するのには向きません。
まずは、MAXでも「15分1セット」くらいの感覚で取り組みましょう。
15分がきたら、完璧でなくても一旦そこでやめてOKです。
その代わり、その15分の間はしっかり音を聴いて再現することに集中しましょう。
一旦それで良しとし、もしもう1セット(15分)、1日のどこかで時間が取れれば、そこで練習するようにしましょう。
スマホさえあれば練習はできますので、ちょっとした隙間時間で、しっかり集中して鍛えるようにしましょう。
② 同じスクリプトを数日間は継続する。
理由としては、1日だけでは、なかなか音声知覚処理は自動化しないからです。
毎回新しいスクリプトだと、常に目新しいパターンの英語音を処理しないといけないので、いつもフルパワーで練習するかたちになってしまいます。
「楽になってきてる♪」という感覚をもてることが大事です。
同じ処理を繰り返していると、1日目よりも2日目、2日目よりも3日目といったように、少しずつ楽になっていくはずです。
それが自動化が進んでいる、ということでもあります。
特にはじめは、同じスクリプトを3〜7日と継続して使っても悪くはありません。
毎回のスクリプトを、ある程度楽にこなせるようになるまで、シャドーイングを繰り返しやり込みましょう。
徐々に、より細かな部分も気にできるようになります。
自動化が進んでくると、シャドーイング中、より細部の音声を気にする余裕もできてきます。
それに連れて、ネイティブのリズム、イントネーション、リエゾンなどの音声変化も、より意識を向けてして練習をしやすくもなって行きます。
このようなサイクルで、1つのスクリプトを仕上げていくようにしましょう。
ある程度の期間をかけて、毎回そういったスクリプトを地道に1つずつ積み上げていくことで、はじめて聴く英文でも、音の聴き取りや認識が楽になっていくはずです。
さいごに

「素早く音声を知覚できるようになる」といった「身体で覚えるスキル」というのは、本で覚える知識などと比べると習得するまでに多くの時間がかかります。ですが、車の運転などと同じように、一度身につけたらなかなか忘れない「一生もののスキル」でもあります。(門田, 2012)
ここまで見てきたように、シャドーイングは負荷のかかる、疲れるトレーニングです。
ですが、
- 短時間でしっかり集中して取り組む
- 1つのスクリプトを継続して取り組み、楽にできるようになるまで自動化する
- このような楽にこなせるスクリプトを、期間をかけて1つずつ積み上げていく
といったかたちで頑張れば、継続もしやすく、また良い結果も得られやすいはずです。
少しでも学習の参考になれば幸いです。
おわり
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【参考文献】
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.
村野井仁. 2006.『第二言語習得研究から見た効果的な言語学習法・指導法』東京:大修館書店.