シャドーイングが難しくてできない【そう感じる時に考えるべきこと】
これまで「シャドーイングが効果的」と聞いてやってみるも、「難しくてできない… 」と言う方は多いと思います。
そしておそらく、ただ「できない」というだけではなく、
「こんなの本当にできるようになるの?」
「できる人の感覚が理解できない…」
くらいの、強烈な無力感を感じて挫折する方が多いのではないでしょうか。
それほどシャドーイングは、難易度が高い練習法です。
ただいろんなところで「効果的!」と聞くだけに、「自分はできなくて焦る」「自分は英語のセンスがないのでは?」などと思ってしまうことも多いのではないでしょうか。
(過去、私自身も挫折したときに持った感想です。)
確かに、シャドーイングは効果的な練習法です。
ただ、いつもこのような状態だと、練習として上手く効果が上がらないばかりか、自信も持てなくなってしまい、結果やめる原因にもなってしまいます。
今回は「シャドーイングが難しくてできない…」と悩んでいる方向けに、この問題をどのように捉えればいいか、またどのように練習を進めていけばいいのかについて書いていきたいと思います。
本記事の内容
- 1:そもそもシャドーイングは難しい練習法
- 2:「シャドーイングが難しくてできない」と感じる時に考えるべきこと
- 3:シャドーイングがうまくできないときの対処法
この記事を読むことで、今直面している状況を冷静に見つめ、次の一手をつかんで少しでも自信を持って学習を進められるようになっていただければ嬉しいです。
それでは行きましょう。
1:そもそもシャドーイングは難しい練習法

「シャドーイングがうまくいかない…」と感じてしまうことがあると思います。
ですが、まず大前提として、「シャドーイングはそもそも要求度の高いタスクである」ということをおさえておきましょう。
シャドーイングでは、次から次へと流れてくるモデル音を聴きながら、それをひたすら口から出して行かないといけません。
単純に「スピードが速い」という面もありますが、それに加え、
といったことを「同時に」行わないといけないマルチタスクでもあり、これがさらに難しさを増しています。
しかもこのようなことを、外国語という慣れない言語で行わないといけません。
このようにシャドーイングは、学習者に対して極めて高度なこと要求する練習法です。始めた多くの方が持つ「難しい」「全くできない」という感覚はその通りだと思います。
では、このような事実を捉えた上で、どのようにして行けば良いのでしょうか。
2:「シャドーイングが難しくてできない」と感じるときに考えるべきこと

一番大事なポイントは、
ということです。
その練習で要求されることが、今の自分で対応できる範囲を大幅に超えてしまう場合、「できない」という状況からなかなか抜け出すことができません。仮に続けたとしても、練習が空回りしてしまい、なかなか効果も上がりません。
例えば、ウェイトトレーニングという方法があります。あえて重いおもりを使い、普段の自分の力を超える大きな負荷をかけることで、筋肉の増強をして行きます。
このようにあえて大きな負荷をかけることで、効率的に鍛えていくことは重要です。ですがそれでも、「いくら頑張っても持ち上がることがない」という過度なものであれば、全く効果的なトレーニングとはならないでしょう。
「頑張ったらちゃんと持ち上がる」という適切な範囲で負荷をかけるからこそ、正しいフォームで動作することができます。それによって、狙った筋肉をしっかり使えて効果をもつようになるのです。
「自分の能力」⇄「求められる能力」の差をうまく調整する
シャドーイングにおいても、これが非常に大切です。
先ほども書いたように、シャドーイングは連続的に「聴く&言う」を繰り返していかないといけないマルチタスクです。そのため、練習中脳にかかる認知負荷は相当なものです。
特にこれまで、音をベースとした英語学習にあまり取り組んでこなかった方は、音声知覚処理がほとんど自動化されてないため、「聞くだけでも精一杯」「全くスピードについていけない」といった状況になりがちです。
このような場合は、シャドーイングを正しい形でしっかりとこなせるように、練習時にかかる負荷を意図的に軽減することが大切です。
常に「今の自分より少しだけ高い負荷」をかけ続ける
練習の進め方の全体像としては、
- 練習レベル(負荷)を今の自分より「少しだけ」高いものに調整
- 反復して、そのレベルがある程度無意識的にこなせるようにする(自動化する)
- さらに「少しだけ」負荷レベルを上げる
- 反復して、そのレベルを自動化
- さらに「少しだけ」負荷レベルを上げる
- 上記の繰り返し
というように、階段を1段ずつ登っていくように練習していくことが大切です。
1つずつ確実に自分のものにして行けば、少しずつシャドーイングをこなせるようになって行きます。
ではどうやって、負荷を調整しつつ練習を進めて行けばいいのでしょうか。次はその具体的な方法について見て行きましょう。
シャドーイングがうまくできないときの対処法

負荷を調整する方法として考えられるのは、以下のようなものです。
- ①:スクリプトレベルの調整
- ②:スピードの調整
- ③:シャドーイングの正しいやり方を見直す
- ④:「つぶやき」で行う
- ⑤:そもそもネイティブと違う発音をしている箇所を修正する
順番に見て行きましょう。
①:スクリプトレベルの調整
難しい英語スクリプトだと、シャドーイング中の負荷が跳ね上がってしまい、本来取り組むべき音声の処理に集中しずらくなります。
これについて門田(2007, p.236)は以下のように述べています。
基本的には黙読して一部の語句はわからなくても、全体としては苦もなくすっとわかるような英文でないといけません。100語のテキストであれば、未知語は2語か3語以内というのが理想だと思います。
上記の通りです。
このような簡単なスクリプトを使うことに、罪悪感を感じる必要はありません。
未知語に意識を取られることが少ない分、音声にしっかりと集中し、シャドーイングをうまくこなせるようにして行きましょう。
②:スピードの調整
これもシンプルかつ簡単に負荷を軽減する方法です。
「モデル音の再生スピードを遅くする」ことで、一定の時間内で練習者が処理しないと行けない情報量が減ります。そのため、シャドーイング中の認知負荷を軽減することができます。
はじめから1倍速にこだわる必要はまったくありません。
「聴いた音を2, 3語遅らせて言う」ことがきちんと実践できる速度で、しっかり取り組んで行きましょう。
速度の調整方法
1つはそもそもスピードが遅いスクリプトを練習に使うと言うことです。
聴いて見た印象で速いか遅いか判断するのもいいですし、1分間に何単語しゃべっているかというWPM(Word Per Minute)をとってみるのもいいと思います。
また速いスクリプトだったとしても、アプリを使うと倍速を落とすことができますので、「0.7倍速 → 慣れたら0.8倍速 → …」といったように調整しながら、段階的に進めましょう。
③:シャドーイングの正しいやり方を見直す
余分な負荷がかからないように、「正しいやり方で行えているか」と言うことも大切です。
例えばよくあるのが、シャドーイング中、「音声面」だけではなく「文構造や意味内容」なども実際のリスニングさながらに意識してしまっているパターンです。
意識を割かないといけない対象が増えるため、その人のワーキングメモリの処理容量を超えてしまい、うまくシャドーイングをこなすことができません。
このような場合は、今一度【シャドーイングの目的や意図】を確認するようにしましょう。
(なお、このようなシャドーイングの効果は、応用言語学者の門田(2007, 2015)によって指摘されています。)
まずは音声だけに集中でOK
もしかすると「文構造や意味をあまり考えずにやっていいの?」と心配になってしまうかもしれません。
ですが、「音をしっかり聴きながら」「意味も考えながら」シャドーイングするのは、脳の処理として非常に大変です。
「音の知覚」も「意味理解」も不十分な形で進んでしまい、結果として、どちらの処理も鍛えられなくなってしまいます。
むしろシャドーイングは、「あらゆる注意を主に音声面だけに向けさせることで、音声処理を深いレベルで集中的に鍛えていける」ということがメリットです。
意識の選択と集中が大切です。
トレーニングの意図をしっかりと見極め、それに沿った形で意識するポイントを設定するようにしていきましょう。
» 参考:シャドーイングは意味理解しながらやらなくていいの?
④:「つぶやき」で行う
同じ観点で、「口をつぶやき程度に抑えてでシャドーイングをする」というのも有効な方法です。
これはつまり、シャドーイングでこなさないといけない、
というタスクのうち、後者の「発音」の方を、あえてあまり意識せずに行うということです。
これにより、シャドーイング練習の大前提になる、前者の「音声を聴くこと(音声知覚)」に集中しやすくなります。
はじめ自分の発音については、ボソボソ発音でOKです。また、間違えてしまったり、完璧に口が回らなくても問題ありません。
まずはしっかりと音声を聴くことに集中し、「耳で音を拾えている感覚」を持てるようにしましょう。
慣れるにつれて、少しずつ口を動かして行くようにしましょう。
» 参考:シャドーイングの声の大きさの使い分け【マンブリングのススメ】
⑤:そもそもネイティブと違う発音をしている箇所を修正する
これもシャドーイングを難しくしてしまう、大きな要因の1つです。
そもそもネイティブスピーカーが言ってないような、「間延びした音声の感覚」で音を聴こうとしてないか、発音しようとしていないかという点も重要です。
具体例をあげます。
例えば英語には、
という特徴があります(Buck, 2001)。
例えば、以下の3つの文。
この3つの文は、下に行くにつれ単語の数は増えています。
ですが、1番目の文に置かれている青丸(アクセント)の位置やタイミングは、下の文でも変わりません。また、どの文においても、青丸どうしはおおよそ等間隔に発音されます。文全体の長さもほぼ変わりません。
結果、2,3文目のように単語の数が増えても、アクセント間にある単語(is, her, his)は短く圧縮して発音され、英語独自のリズムができあがります。
ですが、もしこの英語のリズムが頭の中でスタンダードになっていないと、全ての単語を強く長く発音してしまい、それぞれの音を認識たり発音しようとしてしまいがちです。例えば以下の、3つ目の文のようになります。

このような音の感覚が基本となっていると、シャドーイングでも「耳が音声をキャッチできない」「スピードについていけない」ということが起こってしまいます。
また少し別の視点ですが、基本的にisなどbe動詞や、his, herなど代名詞、他にも(ここには出てきてませんが)助動詞や前置詞などの「機能語」は、基本的に「ボソッと短く弱く」発音されます。
これは “a weak form”(弱形)と呼ばれ、英語の発音の基本的な特徴の1つとして知られています。
もしこのような機能語も、Ken、give、moneyといった「内容語」と同じように長く強く発音する感覚でいると、シャドーイング中、自分で発音が追いつかないばかりか、そもそも音として認識できず思考が止まってしまう、ということも起きてしまいます。
一旦シャドーイングから外れてもOK
上記のように、そもそもこれまで自身が身につけてきた英語の音と、ネイティブの実際の音にギャップがあるということは往々にしてあり得ます。
そのような場合は、「自分の頭にストックしている音声」と「実際のネイティブの発音」の間のズレを、1つずつ潰していかないといけません。
このとき、
というのも手です。
どうしてもシャドーイングでは、長い文がひたすら流れてくる練習なので、慣れてない音を1つ1つ確認して行くことができないからです。
まずはシャドーイングを闇雲にこなすのではなく、ネイティブがどうやって発音しているのか正しい音を確認して行く、ということから始めましょう。
例えば、1文ずつ(場合によっては1フレーズずつ)聴き、スクリプトも見ながらで良いと思います。
また、以下のように段階的に進めて行くのもOKです。
・どのような音で言っているかを耳で確認(まずは聴くだけでOK)
・今度は自分で真似して言ってみる(音なしの音読からでもOK)
・慣れたら音も聴きながらそれに合わせて言ってみる
etc.
このように範囲を絞り脳に入ってくる情報を抑えつつ、またスクリプトを見て文字情報の補助も用いながら、まずは発音すべき正しい音がどんなものかを1つずつ認識して行くことから始めましょう。
正しい発音が分かったら、それを自分の口でも何度も発音し、ある程度無意識的に言えるくらいに自動化しておくことがポイントです。それにより、頭が勝手にその音声的な処理を行いやすくなり、少しずつその後のシャドーイングにも活かしやすくなっていきます。
なお、英語ならではの音声の特徴については、上記のようなリズムや弱形以外にも、単語どうしの音がつながってしまう「リエゾン」や、あるべき音が消えてしまう「省略・脱落」なども存在します。
いきなりシャドーイングを完成させる必要はありません。
まずは焦らず、そう言ったものも1つずつ身につけて行き、それを少しずつシャドーイングに活かせるようにして行きましょう。
まとめ

以上、シャドーイングがうまくいかないときに考えるポイント&対処法でした。
たとえ「こんなのできる気がしない…」というものでも、後になって気づいたら「できてる!」と意外に思えるものです。
うまくできないと感じるときこそ、その難しさをうまく減らせる方法をとりつつ、1段ずつ階段を登って頂上を目指すようにしましょう。
何か学習のヒントになれば幸いです。
おわり
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【参考文献】
Buck, G. 2001. Assessing listening. Cambridge: Cambridge University Press.
門田修平. 2007. 『シャドーイングと音読の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.