シャドーイングとリピーティングの違い【どっちが効果ある?】
「どっちの方が効果的なのか知りたい。」
今日はこのような疑問に答えます。
本記事の内容
- シャドーイングとリピーティングの違いとは?
- シャドーイングとリピーティングはどっちが効果的?
上記について、人が言語を使用する際の認知的な側面にも触れつつ、書いて行きたいと思います。
では行きましょう。
シャドーイングとリピーティングの違いとは?

シャドーイングとリピーティングは両方とも、
という点では共通している練習法です。
ですが、その2つは鍛えられるスキルが異なります。
その違いとは以下です。
鍛えられるスキル違い
- シャドーイング → 英文を音声的に認識する「音声知覚力」
- リピーティング → 英文の「内容理解力」
上記の通りです。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?
それは2つの取り組み方に、以下のような違いがあるからです。
- シャドーイング → 聴いた内容をすかさず言い続ける(ポーズなし)
- リピーティング → 聴く~言うまでにタイムラグがあり、設けられたポーズに言う
このような違いが、練習のときに学習者に対して違った脳内の情報処理に取り組ませます。結果、身につくスキルの違いを生んでいます。
どういうことか、具体的に見て行きましょう。
シャドーイングの脳内処理と鍛えるスキル
シャドーイングは、英文を音声的に認識する「音声知覚力」を向上させます。
これはシャドーイングが、「音声面」だけに学習者の神経を集中させ、音声処理にひたすら取り組ませるような練習だからです。
言い換えると、英文の「意味内容」や「理解すること」はひとまず意識の外に置いておき、主に「音」のみに集中させることに終始させる練習ということです(門田, 2015)。
シャドーイングの基本処理モード:音声 > 意味内容
例えば、シャドーイングと、普通にリスニングで英文を聴く場合を考えてみましょう。
普通にリスニングするときはその意味内容まで考えが及びやすいと思います。一方、聴き取った音をすかさず繰り返さないといけないシャドーイングでは、音を意識することで精一杯になると思います。
なぜ音だけに精一杯になってしまうかと言うと、そうしないと「聴いた発音を真似して、すかさず言い続ける」というシャドーイングの条件を達成できないからです。
シャドーイングでは、このような要求度の高いタスクをあえて課すことで、学習者を「意味内容よりも音」へと集中させます。
結果、ひたすら音声処理をせざるを得なくしているのです。
意味内容に頼らないことで推測が排除される
また普通にリスニングをする感覚で取り組んでいると、正確に音を聴き取れていない箇所でも、何となく言えてしまうことがあります。
理解した内容や周りの文脈から、その部分を推測して補うためです。
ただしこの場合は、耳を使って音を認識してわかったというより、勝手に自分の頭の方で補って言えているというだけです。
外から入ってくる音声を処理しているわけではないため、音声知覚はあまり効果的に鍛えられません。
耳を使わないことには、やはり耳を鍛えることはできないのです。
リスニングでは、不十分な音声知覚を理解段階が補うことができる [中略] しかし、いつもこのような理解段階からの補償機能に頼っていたのでは、いつまでたっても知覚段階自体が鍛えられないで訓練されないままになってしまいます。シャドーイングでは、特に知覚処理過程に対する大きな負荷のおかげで、常に知覚処理にスイッチを合わせておく必要があり、その分音声知覚自体を鍛えることが可能になるのです。
(門田, 2015, pp. 88-89)
このようにシャドーイングは、
- 流れてくる音声に多くの注意を向けさせ
- 推測で補うことなしに、きっちりと音声的な処理をさせていく
- 結果、音声知覚が鍛えられていく
というものと言えます。
なお、この3つ目は、「音声知覚が自動化」した状態を指します。
耳にした音を、脳が「スピーディーかつ無意識的(自動的)に」処理し、英文に含まれている語を正確に認識してけるような状態のことです。
シャドーイングの直接的な第一目的は、この音声知覚の自動化を達成することです。
(シャドーイングの効果については、シャドーイングの効果とは?【リスニングにどう効くかも解説】も参照ください。)
リピーティングの脳内処理と鍛えるスキル
対してリピーティングでは、聴いたものを復唱するまでにタイムラグがあり、復唱するための時間も確保されています。
そのため、「音声処理」だけではなく「内容の理解」といった、より深い処理にも取り組める時間的な余裕があるのが特徴です。
その過程で学習者は、
・文構造を認識する(文法処理)
・上記からその英文が表す意味内容を想起する(意味処理)
etc.
といった脳内処理にも取り組むことになります。
結果として、音だけではなく、語彙や文法・意味といった処理を鍛え、そこで使った語彙・文法などの知識が長期記憶に内在化されて行きます。
特に2秒を超える場合、意味内容の処理が大事
なお、特に「2秒」以上の長さのリピーティングにおいては、学習者は音よりも意味的な深い処理を強いられることになります。
そうしないと、うまくリピーティングができないからです。
研究者 Baddeley(2002)によると、人が耳にした音声的な情報をワーキングメモリに一時記憶できる範囲は、直前に聴いた「約2秒分」とされています。
もし2秒を超える英語音声をリピーティングしないといけない場合、聴いた音声情報は始めに耳にした方からどんどん抜けて行ってしまいます。そのため、聴いた瞬間に意味内容に変えておき、それも手がかりとして参照しながらでないと、うまくリピートができなくなってしまうのです。
このように、リピーティングを成功させるために、
と繰り返し行うことが、結果として、語彙・文法といった言語知識の習得を促すように働きます。
そしてこのような自分のものとした知識は、後々、英文の内容を瞬時に理解する能力へと繋がっていきます。
(リピーティングの効果については、リピーティングとはどんな練習か?【効果や特徴を詳しく解説】も参照ください。)
シャドーイング vs. リピーティング:まとめ
2つの練習法について、それぞれここまでのポイントをまとめると以下です。

ではこの内容を踏まえて、次は両者の使い分けについて見ていきましょう。
シャドーイングとリピーティングはどっちが効果あるの?

ここまでの内容でお分かりと思いますが、結論として、どっちの方が優れているか良し悪しはありません。
2つの練習は、そもそも違う頭の筋肉を使い、鍛えられる処理能力が異なるためです。
ただ、現状の自分の課題やニーズに合わないものを選んでしまい、ミスマッチにならないよう使い分けていくということは大切です。
そのようなミスマッチを少しでも減らせるよう、以下ではその失敗パターンを2つ見て行きたいと思います。
- 失敗パターンその①:シャドーイングを、意味内容まで完璧に理解しなければ!と取り組んでしまう
- 失敗パターンその②:リピーティングを、音の聴き取り力向上を主に期待して取り組んでしまう
失敗パターンその①:シャドーイングを、意味内容まで完璧に理解しなければ!と取り組んでしまう
このような場合、特にまだ慣れない英文スクリプトを使うのうちは、うまく練習が進まず挫折してしまう可能性があります。
シャドーイングは、音声知覚だけでかなりの脳のリソースが消費されます。その状態で意味理解も一気に取り組もうとすると、脳にかかる認知負荷が限界を超えてしまい、うまく練習をこなせなくなってしまうからです。
また、意味内容の方に重点を置いてしまうと、記事の前半で書いたような「本当は音を聴けてないのに推測で何となく言えてしまう」もしくは「無視して進んでしまう」という状況も生まれやすくなるでしょう。
このように、難易度が上がり過ぎてこなせない、もしくは無理にこなしたとしても、本来のターゲットとするスキルを鍛えられない、といった原因にもなってしまいます。
シャドーイングを行う場合は、まずは音声知覚を鍛えるための練習だと認識して(ある意味で割り切って)、練習を進めて行くことが大切です。
練習中の脳のリソースを、
ということに集中させ、取り組んで行くようにしましょう。
なお、「音」だけではなく「理解」も伴うシャドーイングは「コンテンツシャドーイング」と呼ばれます。門田(2015)は、音声中心のシャドーイングが十分にできるようになってから取り組む練習として位置づけています。
失敗パターンその②:リピーティングを、音の聴き取り力向上を主に期待して取り組んでしまう
選んだ練習法と期待した効果がミスマッチするパターン、その②です。
リピーティングを音の聴き取りや発音面を強化する目的で取り組んだ場合も、難しくてやめてしまうことが多くなると考えられます。
先ほども書いたように、聴いた音声情報を脳内に留めておける範囲は、基本的には直前に聴いた「約2秒間分」のみです。
特に2秒を超える範囲のリピーティングは、頭からどんどん音が消えていってしまうため、難易度が相当上がりリピートがうまくできず、これが挫折してしまう原因にもなります。
また前半で書いたように、それを回避するために「聴いた音声から意味内容を見出してリピートする」といった頭の使い方になるのですが、その過程で結局「自分独自の発音に変換してリピートしてしまう」という可能性も高くなってしまいます。
人は英文の意味内容を見出すために、自分の長期記憶の中にある語彙的な情報を引き出して使っているのですが、その最中で、自分がもともと覚えていた独自の発音も検索されて来てしまい、聴いたネイティブの音が自分独自の発音に、頭の中ですり替わってしまうためです(門田, 2012)。
音声処理を第一に鍛えたいなら他のやり方を検討
もし音声面を鍛えるなら、それに適した方法で練習を行っていくようにすることが大切です。
やはり1つ観点としては、
というポイントを考えると良いと思います。
「聴く〜言う」のタイムラグが2秒以内に収まるような練習をすることで、耳にしたネイティブの “本物の英語の新鮮な音を直接新鮮そのままに” 言いやすくなり、これが音声知覚や発音の改善につながりやすくなります(湯舟, 2011, p.12)。
例えば、リピーティングの枠の中で考えるなら、「リピートする英語の範囲を2秒以内に収める」と言うのも1つの方法です。
この範囲であれば、ポーズで復唱するときもまだ音の残像が頭に残っているので、ネイティブの音を真似して言いやすくなります。
また、音声面に働きかけるという意味では、やはりシャドーイングも強みとするところです。
シャドーイングであれば、基本的に「聴く〜言う」のラグは2秒以内に収まっているはずなので、聴いた音をありのままに知覚して発音もしやすいでしょう。
音声面を鍛えたい場合は、このような方法を検討してみましょう。
まとめ
以上、今回はシャドーイングとリピーティングの違いについてでした。
あらためて簡単にまとめると以下です。
- シャドーイング → 音声知覚処理の強化
- リピーティング → 理解のプロセス強化
もちろんこれは程度の問題でもあり、取り組み方でも使う処理は変わってきますので、綺麗に分けられるものではありません。
ですが、ある程度それぞれの練習が強みとしているターゲットスキルを理解しておけば、期待と実際にやってみたときのギャップで余計なストレスもかかりにくくなり、また学習も組み立てやすくなっていくと思います。
よければ参考ください。
おわり
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【参考文献】
Baddeley, A. D. 2002. Is Working Memory Still Working?. European Psychologist, 7(2), pp. 85–97.
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.
湯舟英一. 2011. 英文速読におけるチャンクとワーキングメモリの役割.『Dialogue : TALK紀要』9, pp.1-20.