シャドーイングの精度を上げていく方法【5つのステップで解説】
繰り返し練習しているけど、どうもうまくできない…
もっと細部の精度を上げて行きたいんだけど、どうしたらいい?
今日はこんな疑問に答えます。
シャドーイングは、モデル音源をできるだけマネすることが大事と言われます。
ですが、「何度やっても同じように言えない」「どうやって改善したら良いのかわからない」と悩んでしまうことも少なくありません。
そのような場合は、ただ闇雲に繰り返すだけではなく、一度立ち止まって分析してみることも大切です。
今回はそのような方に向け、シャドーイングの精度を上げるための具体的な方法について、解説していきたいと思います。
本記事の内容
- シャドーイングの精度を上げるために必要な3つのこと
- シャドーイングの精度を上げるための5つのステップ
それでは行きましょう。
シャドーイングの精度を上げるために必要な3つのこと

以下の3つです。
- ①:分析のための時間をとる
- ②:うまくできない原因を探る
- ③:段階的に自分のものにする
順番に解説します。
①:分析のための時間をとる
シャドーイングで「量」をこなすことは大切です。
ですが、何度やってもうまく言えない所がある場合、ただ繰り返すだけではなかなか改善されません。
うまく言えない所がある場合は、少し立ち止まり「音を細かく分析する」ようにしましょう。
時には音源を流すことをやめ、モデルのネイティブスピーカーがどのように言っているのかを、緻密に見ていくことが大切です。
②:うまくできない原因を探る
ではその上で何をすべきかと言うと、「自分がうまくできない原因を探る」ということになります。
シャドーイングは、
という流れで進行していきますが、うまく言えない場合は、1つめの「音を聴き取る」段階がうまくいっていないことが多いです。
そこを聞いた時に、
というように思えてしまうことはないでしょうか?
もしそうでしたら、まずはこの状況を克服することが大切です。
聞こえない原因は、GAPです。
「自分が想定している英語の音」⇔「現実に発せられるネイティブの音」
この2つのズレ(GAP)が大きければ大きいほど、音を聴き取ることが難しくなります。
音を耳にしても、すぐにピンときません。
人は音を認識する際、外から入ってきた音を、自分の頭の中にある言語音声の知識と照合させながら認識しています。それがうまくマッチすれば、はじめて音声として知覚されます。
そのため、自分が思っている英語の音と、実際にネイティブが発するリアルな音が違いすぎると、頭の中で音の照合作業がうまくいかず、スムーズに音の知覚ができなくなってしまうのです(門田, 2015)。
具体例で見てみましょう。
たとえば、以下のような文。
文頭の「I’ve had a」は、どのような発音になるでしょうか?
もちろん話す人や状況にもよりますが、特にしゃべるスピードが速くなった場合、この部分は、
のように、1カタマリの音で、非常にボソッとだけ発音されることがあります。
にもかかわらず、もし文字通りに、
という想定で聞こうとしてしまうと、あまりに音の印象が違いすぎるため、「とても I’ve had a って言っているようには聞こえない…」という問題が起きてしまいます。
聞こえない音は、自分でマネすることができません。当然ながら、シャドーイングもうまく行かなくなってしまいます。
「自分の中にない音」は新しく身につけて行きましょう!
上記のように、見た文字通りの音で発音されていない例は、たくさん存在します。
特に「知っている単語のはずなのに、音で言われるとわからない…」という所については、
- そもそも自分が想定している音で発音されていないことがある
- なので、ネイティブが発するリアルな音を特定し、新しく音を覚え直していく
- それによって、「自分の頭の中の音」⇔「実際のネイティブの音」のGAPを埋めていく
というアプローチが大切です。
③:段階的に自分のものにする
シャドーイングの精度を上げるうえで、もう1つ大切なポイントです。
分析して、無事にネイティブの正しい音を特定できたとしても、いきなりそれをシャドーイングで行うのは、簡単なことではありません。
シャドーイングのような余裕がない状況下では、まだ慣れていない音ほど実践するのが困難になります。
なので一旦分析をしたら、いきなりシャドーイングには戻らず、「予備練習を挟みながら徐々に自分のものにしていく」ことが大切です。
分析 ▷ 予備練習 ▷ シャドーイング
上記のような流れをつくっていきましょう。
予備練習を挟むことで、自分の頭の中の英語音声が、少しずつネイティブに近いものに置き換わって行きます。そうすれば、シャドーイングもやりやすくなるはずです。
シャドーイングの精度を上げるために必要な3つのこと(再掲)
- ①:分析のための時間をとる
- ②:うまくできない原因を探る
- ③:段階的に自分のものにする
上記の通りです。
次に紹介する5つのステップは、この①〜③も意識したものになっていますので参考ください。
シャドーイングの精度を上げるための5つのステップ

では具体的に手順を見ていきましょう。
以下の通りです。
- ステップ1:修正箇所を決める
- ステップ2:ネイティブがどう言っているかを特定する
- ステップ3:部分的に練習する
- ステップ4:文字スクリプトありでシャドーイングする
- ステップ5:文字スクリプトなしでシャドーイングする
以下、順に見ていきましょう。
(※ なお、上記のステップを行うにあたっては、ひとまずは「英文の意味までは考えず、音の改善だけに努める」というのでOKです。「練習の難易度が上がりすぎるから」というのが1つの理由ですが、この点が気になる方はシャドーイングは意味理解しながらやらなくていいの?も参考ください。)
ステップ1:修正箇所を決める
まずはどこをテコ入れするかを決めていきましょう。
以下のような所が候補になります。
- シャドーイング中、音がよく聞こえないところ
- シャドーイング中、うまく言えないところ
- 文字スクリプト通りに、モデルスピーカーが言っているようには思えないところ
例えば上記です。
こういった箇所については、「自分が思っている英語音」と「実際にネイティブが発している音」との間にズレがある可能性があり、分析の対象となってきます。
自分の声を録音してみるのも手です。
シャドーイング中は、それをこなすことだけに集中してしまいがちです。
そのため、自分がうまくできていない所やミスが実はあったとしも、それに気づかないことがよくあります。
- 自分の声を録音しつつシャドーイングをする
- あとでそれを聞き返し、スクリプトを見ながら自分のパフォーマンスをチェックする
上記のようにすれば、自分の修正すべき箇所を発見できたりします。
ICレコーダーや、最近ではスマホでも簡単に録音が可能です。
そういったツールもうまく使って、自分のパフォーマンスを分析するようにしましょう。
※ ただし、あまり多くピックアップし過ぎないように。
1つ注意点です。
修正箇所を特定するのは大切なのですが、一度に多く取りあげ過ぎてしまうと、後々のシャドーイングの難易度が上がってしまいます。
仮に100単語程度の英文を使うとすれば、修正する箇所は3つぐらいに絞ると良いと思います。
まずはしっかり的を絞り、そこが克服できた段階で、他の箇所についても修正していくようにしましょう。
ステップ2:ネイティブがどう言っているかを特定する
ここが分析の中心ステップとなります。
主にやることは以下です。
- 文字スクリプトを見ながら、問題の箇所の音を再生する
- ネイティブがどのように発音しているかを、耳で確認する
- 聴いた音をもとに、文字スクリプトに正しい音を記入する
このようにして、新たに身につけるべき音を可視化します。
ただし、ここで1つ問題があります。
「そもそも自分が聴き取れない箇所をピックアップしているのに、自分でどうやって正しい音を判断するのか?」ということです。
これには「英語の発音パターン」に関する知識を使いながら分析していきます。
以下、具体例で見ていきましょう。
分析する例文
(心配ないよ。それはそのお店で手に入るものだから。)
こちらの文について、以下のような発音の可能性が考えられます。
パターン1:「子音+母音」の並びでは、音がつながる。
「get at」の部分に注目しましょう。
ここは get の t が子音、次の at の a が母音となっています。
このような時は、「ゲット アト」ではなく「ゲタト」のように、音がよく繋がります。
これは「連結」と呼ばれる現象です。
パターン2:/t/ が母音に挟まれると、ラ行のような音になる。
さらに「get at」では、get の t が、2つの母音 e と a に挟まれています。
そのため、「ゲタト」ではなく「ゲラト」のように、よく発音されます。
これは「弾音化(だんおんか)」と呼ばれる現象です。
パターン3:語尾にくる /t/ などの破裂音は、消えやすい。
以下の通りです。
・that(ダト) → tha
・at the(アトダ) → a
(なお、実際には音が完全に無くなるというよりは、小さい「ッ」のような間(マ)が生じることが多いです。)
これは「脱落」と呼ばれる現象です。
このように、子音 /t/ の特徴である「トゥッ!」という破裂の音が実はそもそも破裂されていない、とうこともよくあります。
モデル音を聞いていて「これ t ちゃんと言ってる??聞こえないんだけど…」と困っている人は、この脱落の可能性を疑ってみるようにしましょう。
パターン1〜3を、文字スクリプトに可視化する。

上記のようなイメージになります。
(印は自分でわかりやすいものを使うと良いです。)
このように、元々の文字通りの音と違う音になることが多いので、それを音の変化パターンに沿って分析し、突き止めていきます。
なお、このようなパターンは数も多くなく、事前に知識として知っておくと非常に便利です。
英語の音声変化:6つまとめ【生じるときのルール + 例つき】
英語の音声変化にはどんなものがあるのでしょうか?本記事では、6つの音声変化(①連結/②同化/③脱落/④弱形/⑤弾音化/⑥声門閉鎖化)がそれぞれどんな特徴か、またどんなときに生じるかというルールも例つきで解説。ナチュラルな英語の発音に強くなりたいという方は必見です。
さらに、「英語のリズム」についても分析してみます。
英語のリズムには、以下のようなルールがあります。
- (1)内容語 → ストレスを置いてしっかり発音
- (2)機能語 → 極めて弱く発音
(内容語とは名詞や動詞などの語、機能語とは代名詞、助動詞、前置詞などの語のことです。)
しっかり発音する(1)だけ印をつけてみますと、以下のようになります。
(なお、Don’tは本来助動詞ですが、否定という重要な意味をもつ語であり、普通はストレスが置かれます。)
上記のように、●はストレスを置いてたっぷり発音していきます。
このようにして、英語独自の「強弱リズム」ができあがります。
このようなリズムも、シャドーイングの精度に深く関わってくるところです。ぜひルールを押さえ、分析できるようにしておきましょう。
英語の強弱リズムをつくる際のルール【シンプルに3つだけです】
英語の強弱のリズムってどうなってるの?何かルールはある?と疑問の方向けです。本記事では、英語の強弱リズムをつくるポイントを、3つのルールにまとめて解説しています。リスニングでの聴きやすさ、スピーキングでの理解されやすい発音を身につけて行きたい方にとって、このリズムのルールは必見です。
※モデル音を聞きながら分析するようにしましょう。
ここまで見てきたように、英語音声のパターンについての知識を使いながら、ネイティブがどのように言っているかの「アテ」をつけていきます。
その際に1つ注意点があります。
上記のような知識を使うことは非常に有効なのですが、最終的には「そのモデルスピーカーが実際にどう言っているか?」で判断をするようにしましょう。
紙の上で分析した結果というのは、あくまで参考情報です。
分析でどんな音かを予想したら、問題の箇所のモデル音を、再度よく聴き直すようにしましょう。
「確かに分析した通りに言っているな!」or「分析とは違う感じで言ってそうだな、何が違うんだろう?」などと、実際に自分の耳を使いながら、最終的に自分が出すべき音を特定していきましょう。
ステップ3:部分的に練習する
さて、ここまでで出すべき音が確認できました。
ここからは自分でも実際に音を出しながら、少しずつその音を自分のものにしていきます。
まずは文章全体を言っていくのではなく、分析した箇所や文だけに絞って部分的に練習していきます。
有効な練習法は「リピーティング」です。
手順は以下の通りです。
- ▽ 該当箇所の音源を再生し、そこをしっかり聴く
- ▽ 一旦停止し、それをマネして言う
イメージは以下のようになります。

もちろん、先ほど印をつけた文字スクリプトを見ながらやってOKです。
以下を意識してリピーティングしていきましょう!
例えば先ほどの例文で、以下のような箇所がありました。

ここは音の変化の影響で、「ゲラッダストァ( / géɾəðəstɔˈːr / )」のようによく発音されます。
文字通り読んだときの「ゲット アト ダ ストァ」という音に、とっさに引っ張られないように気をつけてください。

上記のような流れを踏むことが大切です。
これを何度も反復して繰り返すことで、自分の頭の中にある音声知識が、少しずつ実際のネイティブの発音に近いものに置き換わっていきます。
つまり、今までは「ゲット アト ダ ストァ」と処理していたところを、素直に「ゲラッダストァ」という音で聴いたり、言いやすくなってきます。
ぜひ自己流の音に加工することなく、モデルスピーカーが発している音を「そのまま」リピートしていくようにしましょう。
リピートするのは狭い範囲で。
リピーティングは「音源を聴くときは、聴くことだけに集中できる」というのが特徴の1つです。
その点、シャドーイングに比べ、音の細部にも注意を向けながら取り組みやすいと思います。
ただ1点注意がありまして、それは「あまりリピートする範囲を広げすぎない」ということです。
人は、聴いた音をそのまま頭の中(ワーキングメモリ)で一時保持できる時間が「約2秒」と言われています(Baddeley, 2002)。
おそらく、先ほどの「get at the store」くらいであればそれに収まる長さなので、モデル音を聴いた直後はまだその音が頭に保持されており、リピートしもやすいと思います。
ただ、それを大きく超えた範囲になると、自分がリピートする頃には聴いた音を忘れてしまったり、元の自分の発音に戻りやすくなってしまいますので、ご注意ください。
ステップ4:文字スクリプトありでシャドーイングする
部分練習で慣れてきたら、今度は文全体を通しで練習していきます。
ただそれでも、いきなり音だけでシャドーイングをするのは難しいかもしれません。この段階では文字スクリプトを使ってもOKです。
つけた印も見ながら、少しずつシャドーイングに慣れていきましょう。
徐々に「目→耳」にシフトしていきましょう。
シャドーイングは、最終的には、耳だけで行えることが理想です。
そのため、回数を重ねるにつれ、少しずつ「目→耳」へと意識の重心をシフトして行くようにしましょう。以下のようなイメージです。

上記の図は過去の記事からの抜粋です。
詳しくは、文字を見てシャドーイングしてもいいの?【文字=悪ではない話】もご覧ください。
オーバーラッピングを挟むのも手です。
オーバーラッピングは、「モデル音にピッタリ合わせて発音していく練習」です。シャドーイングのように、モデル音と自分の声の時間差はありません。
ピッタリ被せながら発音していくため、「自分がモデル音と全く同じに発音できているか?」をチェックしやすくなります。
たとえば先ほどの例文で、以下のような箇所がありました。

●にはストレスが置かれ、「That’s」 「that you can」「at the」はかなり弱く発音されるのでした。
もし上記のようなところも、寸分狂わずピッタリ言うことができれば、英語の強弱リズムをきちんと反映できている、ということになります。
逆にタイミングにズレがある場合は、弱くすべきところを弱くし切れていなかったり、モデル音にはない余分な音を出してしまっている、といったことも考えられます。
そういったことをチェックをするのにも、オーバーラッピングは有効です。
こういった練習も適宜挟みつつ、文字ありのシャドーイングを、まずはできるようにしていきましょう。
ステップ5:文字スクリプトなしでシャドーイングする
いよいよ最後は、音だけを使ったシャドーイングです。
特にリーディングを中心に学習してきた人にとっては、耳だけを頼りにシャドーイングをするのは、補助輪が外されたときのように少し心細いかもしれません。
ただ耳だけで英語を捉えていくのも、何度も繰り返していると慣れてくるものです。
流れてくる音にしっかりと耳を傾け、ここまで練習してきた修正箇所も上手くマネできるように、練習していきましょう。
マンブリングも有効です。
なおこのとき、ぶつぶつと呟きでシャドーイングを行う「マンブリング」から入るのも手です。
これにより、シャドーイングの
という行為のうち、①に集中しやすくなります。
最初は②の自分の出す音が多少不正確になってしまっても良いので、まずは「音をしっかりと聴けている感覚」を掴んでいきましょう。
それに慣れてきたら、少しずつ②にも注意していき、はっきりと発音していくと良いです。
» 参考:シャドーイングの声の大きさの使い分け【マンブリングのススメ】
さいごに:あとは反復で自動化をドンドン進めて行きましょう!
以上のようなステップを踏むことで、ただ単に繰り返すよりは、シャドーイングの精度を高めやすくなるのではないかと思います。
それでも、今回修正を必要とした箇所については、まだ注意して耳を向ける必要があったり、少し遅れてしまったり、うまく言えなかったりすることもあると思います。
ですが、はじめはそれでまったく大丈夫です。
- ▽ しっかり注意すれば、該当の箇所をマネして言える(ただまだ成功率は低い)
- ▽ それでも繰り返して練習(徐々に成功率も上がってくる)
- ▽ 最終的に、特に注意しなくても無意識的にマネして言える
上記のように変化していくはずです。
反復する中で、少しずつスムーズにできるようにしていきましょう。
おわり
ーーー
【参考文献】
Baddeley, A. D. 2002. Is Working Memory Still Working?. European Psychologist, 7(2), pp. 85–97.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.
森沢洋介. 2005. 『英語上達完全マップ』 東京:ベレ出版.