スラッシュリーディングはいらない?【批判や欠点を6つ解説】
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「やってるけど、今一メリットを感じられていない。」
「賛否の議論もあるようだし、たまに『弊害にさえなる』というのも見るけど、実際のところどうなの?」
etc.
今日はこんな疑問に答えます。
今やっている練習、もしくはこれからやろうとする練習に、疑問を持ちつつ続けていくのも辛いところだと思います。
今回は主に、スラッシュリーディングの「欠点」や「問題点」という視点から、この練習法を理解して行きましょう。
なお私が過去に大学院で英語教授法(TESOL)を学んでいました。今回も主観に寄り過ぎないよう、応用言語学から関連する文献も参考にしつつ、私なりの考えを書いて行きたいと思います。
今後の学習の一助となれば嬉しいです。
では行きましょう。
スラッシュリーディングはいらない?【批判や欠点:6つまとめ】
スラッシュリーディングをやっていて、よく弊害や欠点として挙がる、もしくは実際に問題になってしまうケースとしては下記の通りです。
- 問題点①:スラッシュを引く位置で悩む。
- 問題点②:スラッシュを引くことが目的化する。
- 問題点③:スラッシュがないと読めなくなってしまう。
- 問題点④:「日本語訳」を絡ませることで余計に混乱する。
- 問題点⑤:複雑な文になると対応できない。
- 問題点⑥:「文章全体の視点」を養いにくい。
※各問題点を詳しく解説していますので、少し長めです。よければ何度かに分けるなどしてお読みください。
では以下に、順番に詳しく解説していきます。
問題点①:スラッシュを引く位置で悩む。

「スラッシュ」リーディングと称されているように、この練習で「どのように/を扱うか?」は外せないポイントです。
・自分が/を引いた位置が例と違う。正しい位置が気になって内容に集中できない。
・事前に引かれている/の間隔が細か過ぎて、かえって読みづらい。
etc.
上記はよく陥ってしまう状況です。
/の存在が非常に強い制約となってしまい、逆に読みの妨げとなってしまっているような状態です。
これの問題は、どのように考えていけば良いのでしょうか?
原因:「スラッシュの位置は必ず1つに決まる」という誤解。
上記のように身動きが取れなくなってしまうのは、/について、以下のようなことが前提になってしまっているからではないでしょうか。
- 文法問題で答えが1つに決まるように、「スラッシュの位置に正解がある」と考えてしまう
- 例文で引かれている/の位置が正解であり、それを守らないといけないと考えてしまう
実際問題、スラッシュの位置は1つに決まらない。
原則として、スラッシュで切る位置は、それで1つの『意味のかたまり』と見なせるところです。
そしてこの判断は、究極的には主観的なものです。
例えば以下の例文。
これは、以下のように切ることが可能です。
The / entrance / staff / told / me / where / to / park / my / car.//
1単語ずつ切っています。
これは極端な例であり、実際にやる人は少ないと思います。
ですが、多かれ少なかれ各単語は意味を持っているので、「1単語=1つの意味のかたまり」と見なすことは理論上可能です。このような切り方が、絶対的な間違いかと言うことは実は難しいのです。
The entrance staff / told / me / where to park my car. //
今度は、SやV、Oといった「文の要素」ごとに切ってみました。
文の要素も、ある種それで1つの意味のユニットを作るものです。ということは、(実際にそれで練習するかどうかは別として)このように切ることも間違いではないのです。
The entrance staff told me / where to park my car. //
後半 → 「どこに車を駐車すべきかを」という意味のかたまり
これも<例1>や<例2>同じ理屈で、それぞれ「意味のかたまり」として見なすことができます。間違いではありません。
同一人物であっても、スラッシュの位置は変わる。
仮に同じ人が文を読む場合であっても、その時々で「どこまでを1つの意味のかたまりと見なすか」は変わります。
例えば、言語処理があまり自動化していない人は、どうしても一気に処理できる単語の数が限られます。<例1>までは行かなくとも、細かい切り方になる傾向はあります。
ですが、時期を置いて力がついた段階でまた同じ文を見てみると、<例3>のようにより大きな範囲で取れる、むしろそっちの方がスムーズに読みやすい、ということも起きてきます。
/の正解を探す = 存在しない答え探し
このように、/の位置というのは、つき詰めると最後は主観的な判断です。
スラッシュの位置については、まずこの前提を押さえておくことが重要です。
では、どのように学習を進めていくべきか?
重要なのは、「スラッシュリーディングの目的や、この練習で身につけたいスキル」について、今一度考えてみることです。
スラッシュリーディングの目的2つ【※最重要】
- 目的①:英文を1語ずつバラバラではなく「意味のかたまりごと」に扱うことで、情報処理の効率を上げる。
- 目的②:1文丸ごとではなく「意味のかたまりというパーツ単位」で理解することで、英文を左→右に順に理解できるようにしていく。
(↑スラッシュリーディングの効果とは?【英文を効率的にさばく!】より。)
このような読みを意識することが一番大事であり、これが実践できればOKです。
つまり「意味のかたまりごとに、かつ一切返り読みせず読んでいく」のであれば、あとは本人が切る位置を自分で判断して読み進めていっても良いのです。
強いてあげれば、以下のような基準はあります。
上記のような前提はあるものの、「どこまでを1つの意味のかたまりと見なすか」は、自分の意味処理のしやすさで決めていいのです。
スラッシュリーディングの目的①②のような読みを実践することをまずは一番の念頭におきましょう。「スラッシュの位置は自分で決めていくもの」という意識で取り組んでいくことが大切です。
けど、どこまでが1つの意味になるか判断に自信がない。
はじめから、何も書き込みのないスクリプトを使い、自分で意味のかたまりを判断して行くのはハードルが高いかもしれません。
ある程度、目的①②のような読みに慣れるまでは、「あらかじめ意味のかたまりごとに分けられている英文スクリプト」を使っても全くOKです。
まずは、自分で細かく/の位置を考える必要がない状態で、
- スラリの目的①:/から/を1つの意味のかたまりとして認識する
- スラリの目的②:「左のかたまり→右のかたまり」の順番で理解していく
という2点に集中し、練習を積んでいく中で、意味のカタマリの感覚を身体で覚えていくようにしましょう。
その段階で、/の入ってないスクリプトで同じような読みを実践していけるように、比重を増やして行くと良いと思います。
切る位置の正解はない。けどパターンはある。
その際、「どこまでを意味のまとまりとして見なせることが多いか(/の切れ目になりやすいか)」というパターンを、あらかじめ頭に入れておくと、判断がしやすくなります。
例えば以下のような箇所です。
- ① 基本文型が終わるところ
- ② 後置修飾句が始まりそうなところ
- ③ 長いSが終わるところ
- ④ 新たな節が始まりそうなところ
- ⑤ カンマがあるところ
(↑スラッシュリーディングってどこで切るの?【例文もあり】より。)
このような箇所で切り、1つの意味としてまとめられることが多いです。
ただ繰り返しになりますが、これらは絶対的なルールではありません。
区切ることが多い「候補」として捉え、参考情報として知っておくと良いでしょう。
処理能力が上がるにつれて意味のかたまりを広げていく。
繰り返し練習を積み、言語処理が自動化してくると、一気に意味を認識できる範囲(意味のかたまり)も広くなってきます。
広い範囲で処理できれば、やはり理解のスピードとしては速くなって行きます。
なので長期的には、以下がポイントになります。
- 1度に処理する意味のかたまりの範囲を増やしていく
- しかし、広げすぎて返り読みが生じてしまわない範囲で
小さいと思えば、テキスト通りのサイズにこだわることはありません。必要な場合は、かたまりのサイズは適宜変更して行きましょう。
問題点②:スラッシュを引くことが目的化する。

スラッシュリーディングの問題点2つ目は、以下のような状況です。
このようにスラッシュリーディングでは、「切る」という行為にフォーカスが向きがちになります。ですが、「切って何をすべきか」という視点が抜けてしまい、練習がそこで終わってしまう場合が多いです。
一見さっきと違うようですが、このような疑問も「切って何をすべきなのか?」ということが見えていない状況です。
このように、「切る」こと自体が目的化してしまうことで、練習が効果的に機能しないということが起きてしまいます。
「切る」ことは手段でしかない。
「切った上で何をするのか」ということが大切です。
やはりここでも、スラッシュリーディングの目的①②(意味のかたまりごとに、左→右に順に理解していくこと)が重要になります。
この目的を達成しやすくするための視覚的な補助として、スラッシュを使っていくという認識が大切です。
具体的に見て行きましょう。
スラッシュの扱い方(具体例で)
実際に以下の英文を、スラッシュリーディングする例で見て行きます。
(説明しやすいように、先にスラッシュを入れた文をお見せします。)
(参加する人がほとんどいないので、そのセミナーは中止されると私は思います。)
ではこのように切るまでのプロセスと、注意ポイントを見て行きましょう。
ポイント1:左から順に/を入れていく。
英文は左側から順に読み、理解して行きます。
もし切るときに、最後の「…attend it.」まで文を全部読んでからその前の3つのスラッシュを入れたとしたら、それはNGです。
スラッシュリーディングは「英語の語順で理解する読みを身につけるための方法」です。なので、あくまで左→右の順で文構造&意味的な分析を行い、スラッシュも左から順に入れつつ読み進めていくことが大切です。
文頭から順に読んで行き、
とやっていかないといけません。
順番を飛び越さず、左から右に順に情報処理していくということが大事です。
ポイント2:次に来そうな情報の「予測」を立てる。
返り読みは、一旦文尾まで見渡して、また前の方(過去読んだ箇所)に戻って意味を取っていく方法でした。
具体的に見て行きましょう。
さっきと同じく左から文を読んで行き、
(私は思う)
と、まずは1個目のかたまりの意味内容を、しっかり認識するよう努めることがポイントです。
そうすることで、自然と「えっ、何を?」という「情報の欠乏感」が湧き上がって来ます。この感覚が、次の情報の受け入れ態勢(予想)へとつながります。
また一方で、文構造的にも予測が立ちます。
「think that S’V’」という形は多くの人に馴染みがあると表現だと思いますが、thinkを見たときに「次はthat S’V’が来そうだな」と感じることができます。
(実際はthinkを見たときに、少しthatも目に入ってるはずなので、確信を持ってその予想で読み進めることができます。)
このような「期待」を持って次を見ると、
(そのセミナーが中止になると)
「なるほどそういうことをthinkしてるのね!」と、1つ目と2つ目の意味のかたまりが、頭の中で綺麗に繋がって行きます。
また同時に、次のbecauseも少し目に入っているはずなので、「中止の理由が来るな!」という意味的な予測と、「またS’V’が来るな!」という文構造的な予測が立ちます。
その期待でbecauseのかたまりに入り、
(ほとんど人がいないので)
「なるほど人がいないからか…」と理解。
(意味予測 → けど「人」って?)
(文構造予測 → who(関係詞)があるから次にまたS’V’を含んだ形が来るな!)
上記の期待を持ちつつ、
(それに参加する)
(あぁ参加する人のことね!)
こういったプロセスです。
スラッシュリーディングでオンライン処理を鍛える。
上記のような情報処理の仕方は、学術的には「オンライン処理」と呼ばれます。
オンライン処理とは、次々と入ってくる情報を頭(ワーキングメモリー)に一時的に保存し、その内容を解析、さらに入ってくる情報を保持しつつ、以前入ってきて解析されたものとどうつながるのかを解析して意味を決定していくという一連の作業である。
(塩川, 2008, p.3)
上記の例では「次に〇〇な意味、文構造が来そうだな!」と意識的に言葉で確認しつつ読みました。ですが、もちろん最終的にはいちいち頭で言葉にせず、無意識的に行えるように「自動化」して行きます。
そこは反復練習が必要です。
ただ「スラッシュ入れて終わり!」ではなく、このようなオンライン処理の練習に取り組みやすいように、スラッシュを有効に使っていくことが大切です。
問題点③:スラッシュがないと読めなくなってしまう。

問題の3つ目です。
スラッシュリーディングを、かなり意識的に取り組んだ段階で、
「書き込まないと読み進められない。」
となってしまうような状況です。
これは、どのように対処したら良いでしょうか?
スラッシュ入れずに読む機会を増やす。
すごくシンプルな答えですが、これが一番大切ではないかと思います。
例えば、以下のようなことをポイントにすると良いと思います。
- はじめはスラッシュが入っているスクリプトで練習。→ ある程度慣れたら、スラッシュなしVer.でも音読する。
- スラッシュを書き込むかわりに、音読中、意味の切れ目でポーズを入れる。
- 1回でパーフェクトを目指さなくて良いので、繰り返し読む中で、適切な意味どりを修正していく。
例えば上記です。
なお、2点目について補足ですが、英語の発音は、必ず「意味の切れ目=ポーズの位置」となるわけではありません。ただ重なる場合は多いので、適宜意識されると良いと思います。
慣れるまで場数は必要ですが、何度も繰り返していると、少しずつ/の視覚補助が無くてもできるようになっていきます。
徐々に慣れて行きましょう。
問題点④:「日本語訳」を絡ませることで余計に混乱する。

ここまで見て来たように、スラッシュリーディングは「英語の語順で理解する」ことを身につける方法です。
ただいつも「英語を一度日本語に訳して理解する」ことが基本となってしまっている人にとっては、このポイントを意識しようとして、かえって混乱してしまったりします。
例えば以下のようなものです。
・I think は「私が思う」と訳すよりも、自然な日本語で後ろにつながるように「私が思うには…」とかで訳して行った方がいいのかな?
etc.
「英語を理解する=日本語に訳す」ではない。
英語学習において、日本語に訳しながら進めていくことは、ある面では有効な場合があります。
正確な和訳をするには、英語の語彙・文構造などを正確に把握できてないとできません。
そのため、訳すという過程を通して、正しく単語の意味や、日本語とは違う英語独自のルールをつかんでいくことができます(杉山, 2013)。
ただそれはそれとして、スラッシュリーディングは、実戦の英語運用場面で、スピーディーに英語を理解していけるようにしていくための練習です。
我々が普段、日本語を読んで理解しているのと同じように、できるだけ直感的に文章のメッセージを掴んでいけるようになることを目標としています。
そのため、日本語に訳すのではなく、あくまで目にした英語から直接、その英語が表す「内容」や「事柄」をつかむようにしていくことが大切です。
日本語から英語へは少しずつ切り替えられる。
慣れてない方にとっては、「英語を英語のまま理解する」というのは一見難しく思えるかもしれませんが、何も特別なスキルではありません。
これは、こういったフレーズや語彙に、いろんな場面で何度も出会ってきているからです。
「英語から直接理解する」という意識で英文に触れていると、「英 → 日 → 理解」から「英 → 理解」へと、少しずつ頭が切り替わって行きます。
- すぐには無理でも、英語から直接メッセージをつかむ意識で読む
- 多くの英文に触れる中で、いろんな語彙や文法構造にも慣れ、直感的に意味概念に繋げる回路を太くしていく
このようなことをベースに、学習を進めていくことが大事です。
もちろん少しずつで大丈夫。
一気に切り替えるのは難しいので、補助的に日本語を使っても大丈夫です。
・I think → 「I thinkしたのは…」
・the seminar will be canceled → 「seminarがcanceledされること」
上記のように、はじめは多少英語と日本語が入り混じった感覚で読むのは良いと思います。
慣れるにつれて、少しずつ英語で直接考えられる部分を増やして行きましょう。
なお、より直感的に英語のままで理解しやすいよう、「難しいスクリプトは使わない」「状況や文脈が掴みやすい内容のもので練習していく」といった工夫をすることも大切です。
いくつか具体的なテクニックについては、過去に記事でまとめていますので、よければ参考ください。
英語の音読でイメージが重要な理由【イメージするコツも解説】
英語の音読でイメージする重要性と言われます。そもそもなんでイメージが重要なのでしょうか?本記事では、言語習得の観点からその理由と、イメージして音読するコツを解説。正しい音読のやり方を理解し、最大限の効果をあげたい方は必見です。
問題点⑤:複雑な文になると対応できない。

このようなことも、よくぶつかってしまう問題点です。
特に、語彙・文法的に複雑な英文や、抽象的なトピックの英文などでこのような壁を感じることが多く、結局、返り読みや日本語訳などを伴いながら読む(でないと理解できない)という状況になってしまいます。
ポイント:現状の言語処理レベル⇄求められる言語処理レベルのGAPを埋めていく
どうしても自分の現状のレベルを大きく超えた複雑な文は、直感も働きずらく、左→右に英語のまま理解することが難しくなります。
結果、今まで慣れていた、返り読みや、日本語に訳しながら読むという方法に戻ってしまいやすくなります。
できるだけ多くの英文に触れ、左→右で理解していく経験を多く積んでいく中で、少しずつ元の読み方に頼らなくても理解できるようにしていくことが大切です。
ただし時間はかかる。
もともと、意識的でないとうまくできなかった脳内での処理を、練習を通じて「スピーディー」かつ「無意識に」できるようになることを「自動化」と言います(Johnson, 1996)。
そして自動化を促進するキーファクターは、「練習の頻度」と言われています(村野井, 2006)。
これはつまり、何かをできるようになるには、ある一定の練習量と期間が必要ということです。
スポーツでも楽器でも、絵を描くのでもそうですが、やはり毎日コツコツと継続していくことが上達のために必要です。これは英語でも一緒です。
朗報:一旦スキルにできたものは忘れにくい。
ですが、反復練習によって、無意識的に行えるようにまでなったスキルというのは「習得に時間はかかるものの、一度身につけてしまえばずっと忘れずに覚えている」というメリットもあります(門田, 2012)。
時間はかかりますが、正しい方法でコツコツ練習を続けて一旦身につけることさえできれば、ずっと役立つ確固としたスキルへと繋がっていきます。
スラッシュリーディング的な読みは、長期的に慣れてくことが大事です。
2つの学習の方向性
ここで短期的な視点と、長期的な視点の2つの学習の方向性が見えて来ます。
- 短期視点 → 簡単な英文は、スラッシュリーディング的な読み方で素早く読む。複雑な文は、文構造を分析しつつ時には返り読みも使いつつ理解し、対応する。
- 長期視点 → スラッシュリーディングのような読みは継続して取り組むようにし、少しずつ左→右に読める英文を増やしていく。
何かを読むとき「文章の内容を理解できる」ということが一番の目的です。
短期的には、必要に応じて日本語的な理解の仕方も駆使するというのは、その目的を達成するために必要なことと思います。
読めるものはどんどんスラッシュリーディング的な直読直解で理解するようにし、継続して大量の英文に触れていきましょう。それによって、そのような脳内処理を自動化していくことが大切です。
常に「今の自分より少しだけ難しい英文」で練習が大事。
スラッシュリーディング的な読み方を下積みする際には、
というように、「階段を1段ずつ登っていく」かたちで練習を積んでいくことが大事です。
いきなり難しすぎる文だと、どうしてもそのような読みが困難で、練習にならないからです。
» 参考:英語音読で難しい文を避けた方が良い理由【英文の選び方も解説】
時間はかかりますが、少しずつスキルは積み上がって行きます。
「そういえば前を思うと、難しいものでもだいぶ読めるようになってるな!」というものでもあるので、そこを目指して継続して練習していきましょう。
問題点⑥:「文章全体の視点」を養いにくい。

この点は、学者の塩川(2008)によって指摘されています。
スラッシュリーディングは、どこで切るか、意味のかたまりを左→右にどう繋いでいくか、といったことが練習の中心になって来ます。
スラッシュリーディングには、どうしても抜けてしまいがちな視点です。
「理解力」= 小さい情報処理×大きな情報処理のコンビネーション
英文を「理解する」というとき、
▽ フレーズ・句単位でどんな意味かを認識する
▽ 文法や文構造パターンを認識する
▽ 上記から、その1文がどんな意味になるかわかる
といったプロセスは、比較的イメージしやすいと思います。
認知的に言うと、このような情報処理は「Bottom-up処理」と呼ばれます。
スラッシュリーディングは、上記のような処理サイクルを、英語の語順にそってできるだけ効率的にできるようにしていくための練習と言えます。
ですが、実際に文章を理解するときには、より大局的な視点でも追っていく必要があります。例えば以下です。
・今読んでいる部分は、一般論 or 書き手自身の主張なのか、理由なのか、例示なのか、結論なのか、など論理構成を意識しつつ読む
・文章の流れ上、次にはどんな情報が来そうか予測をたてる
・すでに知っている背景情報や一般常識的な知識をつかって、書かれている内容を解釈する
etc.
このような脳内処理は、「Top-down処理」と呼ばれます。
人は言葉を理解するときに、比較的狭い範囲での処理(Bottom-up処理)と、より広い文章全体を通した処理(Top-down処理)の2つが上手く噛み合って、「理解する」という目的が達成されます。(Grabe, 2009)
日本語では当たり前に行なっていること
普段日本語の文章を読むときは、スラッシュリーディングで目標としているような、
・左 → 右に順に理解しよう
といったことは特に意識していないと思います。
気をつけなくても、そういったことは無意識に脳が処理するように自動化されているからです。
その分、純粋に文章全体のメッセージや、内容の方をつかむTop-down的な処理の方に意識を集中しているはずです。
ですが、英語ではスラッシュリーディング的な読みを実践しようとするだけで、そこに多くの意識が割かれてしまいます。Bottom-up的な処理が自動化しておらず、そうしないと、左→右に正しく読み進めることができないからです。
それによって、文章全体の視点が置きざりになってしまいます。
慣れるにつれてフォーカスを広げていく。
なので、練習を積む中で、少しずつTop-down的な処理にも取り組んでいくことが大事です。
何度も音読する中で、スラッシュリーディング的な読み方に慣れてくれば、徐々にそういった文章全体の把握もしつつ読み進められる余裕も出てきます。
その段階に至るまでは、各文内の細部への小さいフォーカスだけになってしまうのは致し方ありません。
- 1:回数をこなして、スラッシュリーディングの読み(Bottom-up処理)を、無意識的にこなせるよう自動化
- 2:それによって、読んでいる最中に脳に余裕ができてくる
- 3:そしたら、少しずつ文章全体の情報の流れなどにもフォーカスを広げ(Top-down処理)、読むようにしていく
このようなステップで、毎回の英文スクリプトを取り組みましょう。
またこの時も、難しすぎるスクリプトは避けたり、うまくレベルを調整することがポイントです。
» 参考(再掲):英語音読で難しい文を避けた方が良い理由【英文の選び方も解説】
うまく練習をこなせる程よいレベルのスクリプトを使いながら、両立できるよう目指していきましょう。
まとめ

今回は、スラッシュリーディングの6つの問題点についてでした。
学習する際の一助になれば幸いです。
おわり
ーーー
【参考文献】
Grabe, W. 2009. Reading in a second language: moving from theory to practice. Cambridge: Cambridge University Press.
Johnson, K. 1996. Language teaching and skill learning. Oxford: Blackwell.
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.
塩川春彦. 2008. チャンクを意識したリーディング指導. 『ユニコーンジャーナル』, 68, pp. 2-6.
杉山幸子. 2013. 文法訳読は本当に「使えない」のか? 『日本英語英文学 = Studies in English linguistics and literature』, 23, pp.105-128.
村野井仁. 2006.『第二言語習得研究から見た効果的な言語学習法・指導法』東京:大修館書店.