【4つある】シャドーイングの種類について【使い分けも解説】
どう使い分けたら良いのかも知りたい。
今回はこんな内容です。
本記事では、4種類のシャドーイングの特徴をまとめました。
それぞれの違いをおさえ、学習のニーズに合わせて使い分けていけるようにして行きましょう。
本記事の内容
- シャドーイングの種類【4つあります】
- プロソディー・シャドーイングとコンテンツ・シャドーイング
- ボトムアップ・シャドーイングとトップダウン・シャドーイング
- 4種類のシャドーイングの使い分け
それでは行きましょう。
シャドーイングの種類【4つあります】
- プロソディー・シャドーイング
- コンテンツ・シャドーイング
- ボトムアップ・シャドーイング
- トップダウン・シャドーイング
以上の4つです。
なおこの中では、前半の2つどうし、後半の2つどうしが対立する概念となっています。
まずは前半の2つがどんなものか見て行きましょう。
(※なお、それぞれの特徴については、門田(2012, 2015)を参考にしてまとめています。)
プロソディー・シャドーイングとコンテンツ・シャドーイング
2つの違いは以下の通りです。
- プロソディー・シャドーイング → 主に「音声のみ」に集中して行うシャドーイング
- コンテンツ・シャドーイング → 「内容の理解」もしながら行うシャドーイング
順番に見て行きましょう。
プロソディー・シャドーイングとは?
主に流れてくる「音声のみ」に意識を向けて取り組むシャドーイングです。
ここで言う「音声」とは、各子音や母音といった小さい単位の発音だけではなく、リズムやイントネーションといったより大きな範囲、つまり「韻律(プロソディー)」も含みます。
そういった面もとらえつつマネしていくので、「プロソディー・シャドーイング」と呼ばれます。
なお、シャドーイングというと、基本的にはこのプロソディー・シャドーイングのことを指します。
プロソディー・シャドーイングのメリット
音にしっかりと注意を向けつつ取り組む練習法です。そのため、主に音声を耳にしたときの「音の知覚力」を鍛えることに適しています。
門田(2015)によると、リスニングは大きく以下の2つのプロセスからなりますが、このシャドーイングは主に前半の「音声知覚」に働きかける練習法となります。

結果、リスニングで「どんな音かを瞬時に判別・認識するスキル」を鍛えることができるとされてます。
またそれに加え、シャドーイングはモデル音を聴いて直後に繰り返すことで、「聞こえたネイティブの音声を、頭の中で自分流の音に変えてしまう前にそのまま発音する行為」です。
そのため練習を通して、「自身の頭の中の音声知識が、より英語として自然な発音知識へと変わっていく」とも指摘されています。
コンテンツ・シャドーイングとは?
「音の知覚」に加え、文の「内容理解」まで取り組んでいくシャドーイングです。
「スピーカーがどんなメッセージを伝えているのか」を把握しながらシャドーイングをしていきます。
コンテンツ・シャドーイングのメリット
このシャドーイングでは、音声の認識だけではありません。
それ以降の語彙や文の構造、文意といった情報処理まで積極的に取り組むことになります。
結果として、リスニングにおける「理解」プロセスまで鍛えることが可能とされています。

ただ音を分かるだけではなく、そこから話の中身や、話者のメッセージまでつかむための練習と言えます。
またより長期的な視点としては、こういった練習を繰り返し取り組むことで、「その英文に含まれている新しい語彙や文法項目を、自身の長期記憶に蓄積していく」といった役割もあるとされています。
ボトムアップ・シャドーイングとトップダウン・シャドーイング
次は少し別視点からの分類です。
2つの違いは以下のようになります。
- ボトムアップ・シャドーイング → 英文の内容を知らない状態で行うシャドーイング
- トップダウン・シャドーイング → 英文の内容をあらかじめ知った上で行うシャドーイング
ボトムアップ・シャドーイングとは?
未習の英文教材を使って、その内容についてはまったく、もしくはほぼ知らない状態でいきなりシャドーイングを行う方法です。
初めて使う教材では、内容を知らないので、次にどんな単語がくるか?など予想がほとんどできません。つまり、耳にする音声こそが、シャドーイングを実行するための大きな拠り所となります。
ここからボトム・アップシャドーイングは「音声駆動型」のシャドーイングとされています(門田, 2012, p.197)。
ボトムアップ・シャドーイングのメリット
シャドーイングは、モデル音と同じようにマネして発音していくことがミッションです。
そのための手がかりが「聞こえてくる音」しかないため、学習者はモデル音により注意を向け、何をどう言っているのかを一生懸命聴き取ろうとします。
結果、音声を認識する処理に大きな負荷をかけることになり、やはり「音声の知覚力」を効果的に鍛えるのに適しているのではないかと考えられています。
トップダウン・シャドーイングとは?
一方こちらは、既習の英文教材を使い、あらかじめ文中の語彙や文法、意味などを学習した上で行うシャドーイングです。
すでに英文の内容を知った上で、そういった知識も用いながらシャドーイングしていきます。
この意味でトップダウン・シャドーイングは「知識駆動型」のシャドーイングとされています(門田, 2012, p.197)。
トップダウン・シャドーイングのメリット
聞こえた音声だけではなく、あらかじめ知っている英文内容の知識も援用しつつ、シャドーイングをしていきます。そのため、こちらの方が難易度は比較的低いとされています。
なお、それを示唆する研究としてHamada(2014)は、シャドーイングの前に英文の内容について事前に学んでおくことで、シャドーイング中の不安や心理的な負担が軽減され、練習に取り組みやすくなるのではないかと述べられています。
また別の視点として、しっかり内容を理解した上でシャドーイングに何度も取り組むことで、その英文に含まれている決まり文句などの新たな言語項目を、知識として身につけることにつながる可能性も指摘されています(Hamada, 2014; Oki, 2012)。
これは、先ほど触れたコンテンツ・シャドーイングのメリットにも近いものと思われます。
4つのシャドーイングの特徴:まとめ
以下4種類のシャドーイングを表にまとめると以下の通りです。
おそらくこれからもっと研究も進められることと思いますが、現段階では以上のような特徴が想定されているようです。
これらを踏まえ、次はどのように練習で使い分けていけば良いか、考えていきたいと思います。
4種類のシャドーイングの使い分け

使い分けとしては、以下の4つの可能性が考えられます。

この4つのパターンのうち、どのシャドーイングを使っていけばいいのでしょうか?
やはりそれは、学習者の状況によって変えていくことが大切と思います。
以下、大まかに2つのケースで考えてみたいと思います。
- ケース①:シャドーイングを始めて間もない初級者
- ケース②:シャドーイングをある程度こなせる中級者以上
ケース①:シャドーイングを始めて間もない初級者
この場合、結論としてまずは「プロソディー&トップダウン・シャドーイング」から入るのが良いのではないかと思います。
- 主に音のみに集中
- 内容をあらかじめ知った既習の教材を使用
つまり上記を前提としたシャドーイングです。
おそらくシャドーイング初心者にとっては、一番練習の難易度が抑えられ、学習を進めやすい方法と思います。
聞き取りがままならないうちに、内容理解までするのは至難の技。
なぜコンテンツではなくプロソディー・シャドーイングなのか?という理由が上記です。
シャドーイング中、音を正確にとらえつつ、文構造や文意まで把握するのはかなり大変な作業です。
「こんなのできない…」と、挫折の原因にもなってしまいかねません。
予め英文について知っておき、その内容をシャドーイング中に補助として使う。
そして、ボトムアップではなくトップダウンから始めた方が良い理由としては上記です。
前半でも見たように、トップダウンシャドーイングの方が難易度を下げる方法として有効と思います。
おそらく、まったく英文を知らない状態だと「今自分が言っている英語は、果たして合ってるのだろうか?」など心もとない感覚で進めることとなり、練習の難易度も上がってしまう可能性があります。
まずはシャドーイング練習自体に慣れることが第一歩
シャドーイングは「どんどん英文が流れてくる」「聞くと言うを同時に行うダブルタスク」といった、相当過酷な練習です。
それを踏まえると、特にシャドーイングをはじめて間もないうちは、
ということを、第一段階として目指すのが良いのではないかと思います。
自分が練習をこなしやすい状況を整えながら、身につけるスキルもしっかり絞りつつ練習を進めていきましょう。
にしても、シャドーイングは難しい…
ただそれでも、かなり負荷のかかる練習であることは間違いありません。「ムリなく段階的に」練習を進めていくことがカギになります。
そのあたりの詳しいやり方・手順については過去にまとめていますので、よければ参考ください。
初心者でもOK!シャドーイングのやり方【手順やコツも解説】
シャドーイングのやり方について知りたい方向けです。シャドーイングで意識すべきこと、具体的な手順、注意点、成果をあげるためのコツも解説。シャドーイングを練習する上で、一通り押さえておくべきポイントをまとめています。初心者の方も、すでに取り組んでいる方もぜひご覧ください。
ケース②:シャドーイングをある程度こなせる中級者以上
これは、シャドーイング自体にも慣れ、音の処理もある程度瞬時に、かつ自動的にできている状態を想定しています。
この場合は、コンテンツ・シャドーイングやボトムアップ・シャドーイングといった要素もうまく取り入れられると、より練習が効果的になる可能性があります。
コンテンツ・シャドーイングで、理解力アップも目指す
前半で見たように、コンテンツ・シャドーイングに取り組むことで、「聞いた音から内容の理解までする能力」や「その文で使われている語彙などの言語項目を自分のものとして習得していく」効果が期待できます。
ケース①のような練習にしっかりと慣れた段階で、チャレンジしていくと良いでしょう。
ただ、コンテンツ・シャドーイングに入ると情報処理の負荷は大変大きくなります。
まずは使っている英文で、しっかりプロソディー・シャドーイングがこなせる状態をつくってからコンテンツにも入るのが良いと思います。
このあたりの詳しい方法については、以下も参考ください。
コンテンツシャドーイングのやり方とコツ【4つのステップで解説】
「コンテンツシャドーイングのやり方やコツを知りたい」という方向けです。本記事では、難易度をうまく調整しつつ、コンテンツシャドーイングを練習していく方法について解説。挫折せず、無理なく練習していきたい方は必見です。
ボトムアップ・シャドーイングで、より音声知覚を集中的に鍛えていく
ケース①を抜け出し、ある程度音声の処理に対応できる状態であれば、ボトムアップ・シャドーイングを導入するのも有効と思われます。
それによって、音声の聞き取りにより集中する必要がある状況を生み出せ、音声知覚スキルのさらなる強化につながる可能性があります。
ただ、やはりトップダウン・シャドーイングよりは難易度が高くなるため、練習がスムーズに進むような配慮は必要です。
例えば、門田(2012)は、ボトムアップ・シャドーイングで使う教材について、以下を推奨しています(p.26, p.42)。
学習者の知らない語・語句・文法・構文がなく、楽々と意味理解ができる「i-5」「i-10」といったレベルの教材
※「i-5」とは、現状の自分の英語レベルを「i」とすると、それよりもかなり簡単な(5段階分簡単な)レベル、ということを意味します。
また、もしボトムアップ・シャドーイングにトライし、練習の限界を感じたら、すぐにトップダウン・シャドーイングへ切り替える、という判断も大切になります(大木, 2014)。
以上のような点も配慮しつつ、進めていくことが重要です。
【番外編】その他のシャドーイング
最後に、以下のような種類のシャドーイングもあるので、簡単に触れておきます。
マンブリング
「つぶやき」で行うシャドーイング法です。
一旦「自分の口で正しく言えているか」は外して練習を行います。
これもシャドーイングの初期段階などで、難易度を調整したいときや、より音を聴く方に集中したいといった場合に有効な方法です。
» 参考:シャドーイングの声の大きさの使い分け【マンブリングのススメ】
ディレイドシャドーイング
通常のシャドーイングよりも、モデル音源から大幅に遅らせて発音していくシャドーイングです。
門田(2015)では、脳の情報処理と保持に大変大きな負荷がかかる練習であり、プロの通訳者が行うようなトレーニングと紹介されています。
一旦、外国語として英語を学ぶ学習者にとっては、無理して取り組む必要はないかと思います。
リピーティング
シャドーイングと似て非なる練習として「リピーティング」があります。
「聞いた音を遅らせて言う」という点ではシャドーイングと同じですが、聞いた音を言うためのポーズ(音源の一旦停止)があるかないかや、それによる学習の効果も異なっています。
両者の効果を比較している記事も過去に書いていますので、よければご覧ください。
» 参考:シャドーイングとリピーティングの違い【どっちが効果ある?】
最後に

以上、4種類のシャドーイングについて、その特徴と、練習での使い分けについてでした。
もちろん、使い分けについては、今回触れた以外にもいろんなバリエーションがあると思います。
また個人の、その時々の学習ニーズによっても変わるところと思います。
実際に試しながら、その時々で合った方法をとっていけると良いと思います。
その際の一判断情報として、参考にされてみてください。
おわり
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【参考文献】
Oki, T. 2012. Word repetition in EFL shadowing: The roles of phrasal knowledge, context, and proficiency. Annual Review English Language Education in Japan, 23, pp.45-60.
大木俊英. 2014. 繰り返しのシャドーイングへの効果:学習者はより多くの語を復唱できるか?『白鷗大学論集』28 (2), pp.169-187.
Hamada, Y. 2014. The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills. The Language Teacher. 38 (1), pp.3-11.
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.