シャドーイングの効果とは?

Q. 「シャドーイングってどんな練習法?英語学習にいいって聞いたけど、一体どういった効果があるの?」

Q. 「シャドーイングをやってみたけど、いまのところあまり効果を感じられていない。このままやっていて本当に意味あるのかな?どうしたらいい?」
本記事はこのような内容についてです。
シャドーイングは、いろいろなところで勧められている学習法の1つ。その一方で、「やっても意味がない」「効果がない」と感じてしまいやすい学習法でもあります。
今回は、そもそもシャドーイングとは何なのか、どんな効果が期待できるのか、また、そういった効果が感じられないときに考えてみると良いことについて書いていきたいと思います。
もくじ
- そもそもシャドーイングとは?
- シャドーイングの効果とは?
- 「シャドーイングは効果なし」と思うときに考えるべきこと
では順に見ていきましょう。
そもそもシャドーイングとは?

シャドーイングは、聞こえてきたモデルの音声を、少し遅らせながら自分でも言っていく練習法です。
以下のようなイメージで進行していきます。
このように、モデルスピーカーのあとを影(shadow)のようについていきます。
もともとは音声学の実験手法として、また同時通訳の訓練法として使われていたものですが、いまでは英語の学習法としても用いられるようになっています。[1]
なお本記事では、英語学習法としてのシャドーイングについて見ていきたいと思います。
ではこのような練習法に、どういった効果があると考えられているのでしょうか?
シャドーイングの効果とは?
こちらについては書籍や文献を参考にまとめます。[2]
シャドーイングについては現在も研究が行われており、以下のような効果があると指摘されています。
効果その1:音声知覚の自動化
まずこちらは、主にリスニングにかかわるメリットです。
人はリスニング中に、脳内で大きく以下の2つのことを行なっていると考えられています。
- ① 音声知覚 = どんな音が聞こえてきたかを知覚すること
- ② 理解 = 語彙、文法、意味、文脈、背景知識などの処理をおこなって内容を理解すること
シャドーイングは、このうちの特に①を鍛える効果があるとされています。
聞こえてきた音を瞬時に、かつ無意識的に知覚できるよう「自動化」する効果があると考えられています。
シャドーイングは、なぜ音声知覚を鍛えやすいのか?
1つには「シャドーイング中は、音に注意が向きやすい」という点があげられます。
シャドーイングでは、「聞き取った音声を即座に言っていく」ということが求められます。モデルスピーカーがしゃべりはじめてから文章の終わりに到達するまで、休む間もなくこれをくり返していかないといけません。
実際にやってみるとわかるとおり、母語でない英語でこれを行うのはかなり大変な作業です。
基本は「音」に集中して、次々とくる英文をせっせと処理していくようにしないと、ついて行けなくなってしまいます。
結果としてシャドーイング中は、普段なにげなくリスニングをしているときよりも、一生懸命聞き取ろうとしながら音を処理していくことになります。
音の知覚力を最大限に使うことになり、その機能を集中的に鍛えることにつながると考えられています。
音声知覚の自動化による、リスニングへのメリット
リスニング中、「聞いた音をすぐに認識できない」「意識を集中しないとどんな音がわからない」というのでは、なかなか太刀打ちできません。
もし音声知覚力が向上し、それをうまくこなせるようになれば、リスニング中に聞き取れる音の情報量が増えることになります。どんな語彙や文構造が含まれているかなどをより認識しやすくなるため、文の意味内容をつかむ上で有利になっていくと考えられます。
また音声知覚が自動化するとは、音の知覚をより「無意識的に」できるようになるということでもあります。人が一度の情報処理につかえる脳の容量は限られているため、この点は重要です。
もし音声知覚が十分自動化していれば、その分頭に余裕が生まれるため、リスニング中はより本来の目的である「理解」の方に注力しやすくなっていきます。
このように、リスニングの土台となる音のスキル(音声知覚)が鍛えられることで、より有利にリスニングを進めていくことができると考えられています。
効果その2:発音の向上
一方でこちらは、主にスピーキングにおけるメリットです。
モデルスピーカーの発音を、できるだけ正確にマネしながら発音することをくり返していくことで、正しい発音が定着していくとされています。
またシャドーイングはモデル音に置いていかれないよう言っていく練習でもあるため、発音のスピードやスムーズ性にもつながると考えられています。
その他の効果
以上は「音」にかかわるものでしたが、その他の面でも、シャドーイングには効果があると考えられています。
とくに、英文の意味内容も意識しながらくり返しシャドーイングを行なった場合は、以下のような可能性が考えられています。
- 英文に含まれている語彙、文法、構文などが知識として定着する
- リスニングにおける、「理解」の処理段階を鍛える訓練になる
- スピーキングにおける、「語彙・文法知識をもとに文を組み立てて発音する」という部分の訓練になる
このように様々な効果があるのではないかと考えられており、現在も研究がつづけられています。
「シャドーイングは効果なし」と思うときに考えるべきこと
ここまで見たように、シャドーイングについてはさまざまなメリットが指摘されています。
しかし実際には、それらを感じられていない人も、少なくないのではないでしょうか。
このように感じている方もいらっしゃるのではないかと思います。
シャドーイングは「聞こえた音を自分でも言う」と、一見やることはシンプルです。
しかしそれだけでなんとなく始めてしまうと、なかなか思うような成果を得られなかったり、時には挫折の原因にもなってしまいます。
もし今ひとつ意味を感じられていないという状況であれば、いちど以下のようなことも考えてみましょう。
- その1:なぜシャドーイングをやるのか?
- その2:目的にそったやり方になっているか?
- その3:難易度が自分にあっているか?
その1:なぜシャドーイングをやるのか?
まずはシャドーイングにとり組む理由や目的を、あらためて考えてみましょう。
その際、たんに「リスニングのため」「スピーキングのため」というだけではなく、「リスニングの何を鍛えたいのか?」「スピーキングの何を鍛えたいのか?」というところまで考てみることが大事です。
具体的に狙いが定まっていることで、どのように練習を進めるかや、何にこだわるべきか or こだわらなくてもいいか、といったことも見えやすくなっていきます。
さしあたりのターゲット
ではシャドーイングでは、何にフォーカスすべきでしょうか?
結論としては、まずは「音のスキルの向上」ではないかと思います。
つまり前半で触れた、リスニングにおける「音の聞き取り(音声知覚)」や、スピーキングにおける「発音」といったスキルの向上です。
もちろん、シャドーイングがそれ以外の面に効果がないと言っているわけではありません。
ですが、とくにこれから本格的にシャドーイングをするという人にとっては、まずは音声面をターゲットに取り組んだ方が、成果を感じやすかったり、練習を進めていきやすいのではないかと思います。
理由としては大きく以下の2つです。
- 理由1:そもそもシャドーイングは音に集中させやすい練習法だから(← 記事の前半でも触れました)
- 理由2:はじめから音以外のことにも注意を向けようとすると、難易度があがりすぎるから
このようなことから、まずは音重視のシャドーイングに慣れてから、その他の意味などを重視するシャドーイングへと入っていくのが良いのではないかと思います。
(この点については、シャドーイングは意味理解しながらやらなくていいの?も参考ください。)
その2:目的にそったやり方になっているか?
ではひとまず「音」に狙いを定めたとします。
それによって、シャドーイングの練習中に何にこだわるべきかも見えてきます。
- 耳を使ってしっかり音を知覚しようとすること
- できるだけマネして同じように言おうとすること
とくに上記の2つがあげられます。
どういうことか、より具体的に見てみましょう。
具体例
たとえばシャドーイングの中で、”I moved to Tokyo when I was twenty.” という文が出てくるとします。そしてこの文を、モデルスピーカーが以下のように発音していたとします。
もしモデルスピーカーがこのように発音していれば、自分もできるだけそういった音の特徴を耳で認識するようにし、それをもとにマネして言っていくようにします。
このような流れをつくりつつ、シャドーイングを行なっていくようにします。
音を処理するからこそ、音のスキルが身につく
シャドーイングは、外見上はただ聞いた音を機械的にくり返しているだけのように見えます。
ですが上記のイメージ図のような「しっかりとモデルスピーカーの音の特徴を知覚しながらマネしていくシャドーイング」というのは、それだけでかなり頭を使い負荷のかかる行為です。
意識を集中させる必要があり、脳内では音にかかわる情報処理に積極的にとりくむことになります。
そしてこのような脳内処理に何度もとり組むからこそ、モデル音のような発音が徐々に脳に定着していき、リスニングでの音を知覚する能力が上がったり、スピーキングでの発音の向上にもつながっていきます。
シャドーイングだけに限りませんが、「自分はいま頭の中で、どんな処理能力を鍛えているのか?」ということを意識しながら練習していくことが大切です。
その他のポイント
上記以外にも、たとえば以下のような点もチェックポイントになるでしょう。
- 音を聞かず、ただ暗記した英文を言っているだけになっていないか?
- 無理に文構造や意味まで捉えようとして、音への注意が奪われてしまっていないか?
- 音が聞こえないところや、うまく言えないところを克服しようとしているか?
- モデルスピーカーの音が自分のものになるまで、反復して取り組んでいるか?
このようなことにも注意しながら、シャドーイングの目的とそのやり方がリンクするかたちで、練習を進めていきましょう。
詳しいシャドーイングのやり方や手順については、以下も参考ください。
初心者でもOK!シャドーイングのやり方【手順やコツも解説】
シャドーイングのやり方について知りたい方向けです。シャドーイングで意識すべきこと、具体的な手順、注意点、成果をあげるためのコツも解説。正しいやり方でシャドーイングができるよう、一通り押さえておくべきポイントをまとめています。初心者の方も、すでに取り組んでいる方もぜひご覧ください。
その3:難易度が自分にあっているか?
さらにシャドーイングを取りくむ際には、もう1つ大切なポイントがあります。
それは「シャドーイングの難易度のあつかい」です。
シャドーイングという行為の難しさ
そもそもシャドーイングという行為自体が、けっこうなスキルを要します。
シャドーイング中は、「聞く+言う」という複数のことを同時にこなさないといけません。また次々と流れてくる英文をノンストップで処理していく必要があります。
前半でも書いたように、これ自体はシャドーイングの特徴であり、ある意味で長所の1つとも言えます。
しかし、日本語的な音の感覚がベースになっている人にとって、とっさに英語の音を聞き取ったりそれをマネして言っていくというのは、かなり骨が折れる作業でしょう。
シャドーイングで求められる処理力が今の自分の処理力を超えてしまうことで、「うまく聞けない、、言えない、、」という所が多くなってしまい、練習自体が形にならないということも少なくありません。
シャドーイングをするにあたっては、無理のないよう、難易度を調節しながら進めていくことが重要になります。
考えるとよいこと
- 使う英文のレベルやスピードは自分に合っているか?
- 複数のことを全部一気にやろうとしていないか?
- 本格的なシャドーイングに入る前に、予備的な練習は挟まなくても良いか?
- 音が聞こえなかったり、言うことが困難な箇所については、その原因を特定して克服できているか? など
たとえば上記のような点です。
シャドーイングの強みを活かせるよう、難易度の調節も積極的に行いながら練習を進めていきましょう。
シャドーイングが難しくてできない理由と対処法
シャドーイングが難しくてできないという方向けです。シャドーイングはそもそも認知負荷の高い練習であり、多くの方が苦労する練習法です。このよう状況をどう打開すればいいのか?本記事ではシャドーイングが難しい理由と具体的な対処法を解説しています。シャドーイングができるよう、次の一手を知りたい方は必見です。
まとめ

以上、今回はシャドーイングの効果についてでした。
シャドーイングのメリットが何かに加え、どうすればそれにアクセスしやすくなるかという観点でまとめてみました。よければ参考ください。
おわり
ーーー
【脚注】
[1] 門田(2015)
[2] Hamada(2018, 2019), 門田(2012, 2015, 2018, 2022)を参考にしています。
【参考文献】
Hamada, Y. 2018. Shadowing for language teaching. [Online] [Accessed 15 June 2023]. Available from: this link
Hamada, Y. 2019. Shadowing: What is it? How to Use It. Where will it go? RELC Journal. 50 (3), pp. 386–393.
門田修平. 2012. 『シャドーイング・音読と英語習得の科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.
門田修平. 2018. 『外国語を話せるようになるしくみ』 東京:SBクリエイティブ.
門田修平. 2022. リスニング. 中田達也, 鈴木祐一 (編)『英語学習の科学』 東京:研究社, pp. 73-90.