シャドーイングは意味理解しながらやらなくていいの?
Illustration by Maria Shukshina from Icons8
シャドーイングしながら意味を理解するなんて、とてもじゃないけどムリだし…
どうしたらいい?
今日はこんな疑問に答えます。
言語学習において「意味の理解」は常に中心に置くべき課題です。
ですがことシャドーイングにおいて、これをうまくできない場合も多いのではないかと思います。
「意味も理解しようとすると難しくてできない…」、その一方で「意味を理解しなくて本当に効果があるの?」と悶々とされている方も多いのではないでしょうか。
今回はこのような点がクリアになるよう、「シャドーイングにおける意味理解」をテーマに書いていきたいと思います。
それでは行きましょう。
シャドーイング中、意味は理解しながらやらなくていいの?

結論として、特にシャドーイング練習の初期においては、そこまで意味の理解をしようとしなくて大丈夫です。
理由は以下の2つです。
- 理由①:「意味の理解」は最初に身につけるべき第一ターゲットではないから
- 理由②:「意味の理解」まで意識することで難易度が上がり過ぎるから
順番に見て行きましょう。
理由①:「意味の理解」は最初に身につけるべき第一ターゲットではないから
特にシャドーイング練習の初期では、意味内容の理解よりも、音の処理に集中して取り組むことがオススメです。
そもそもシャドーイングという練習法は、この「音に関する処理力」を鍛えやすいものになっています(門田, 2015)。
シャドーイングでは、次々と流れてくるモデル音の英文を聴きながら、できるだけマネしながら言い続けなければいけません。そのため脳内の処理としては、非常に忙しくなります。
遅れずに着いていくには、ずっと「モデル音を聴く→それをマネして言う」ということだけに、多くの意識を集中させていないといけません。
実はこの「終始、聴いた音を言うことだけに集中しないといけない」というのがポイントです。
意味の理解までできないのが、むしろ良い。
少しここで、普段リスニングをしているときのことを想像してみましょう。
以下のような聞き方になっていることはないでしょうか?
もちろん、こういった聞き方が悪いわけではありません。実戦のリスニングでは、推測や既存の知識なども総動員しながら、できるだけ相手の伝えようとしているメッセージをつかんで行くことが求められます。
ですが普段からそのような聞き方ばかりだと、いざ耳から入ってきた音声に対して「こんな音だ!」と瞬時に認識するための力が、なかなか効果的に鍛えられて行きません。
やはり「細部まで聴き取ろうとする」ということを繰り返すことで、はじめて耳が鍛えられるという面があります。
いつも [中略] 理解段階からの補償知覚処理機能に頼っていたのでは、いつまでたっても[音声]知覚段階自体が鍛えられないで訓練されないままになってしまいます。シャドーイングでは、特に知覚処理過程に対する大きな負荷のおかげで、常に知覚処理にスイッチを合わせておく必要があり、その分音声知覚自体を鍛えることが可能になるのです。
(門田, 2015, p.89)
このように、シャドーイングにおいて「意味の理解ができない」というのはデメリットではありません。
こういった点が、シャドーイングの大事なポイントになります。
理由②:「意味の理解」まで意識することで難易度が上がり過ぎるから
上記のように、シャドーイングは要求度が高い練習法です。
あえて音の処理に重い負荷をかけているにもかかわらず、さらに意味の理解まで完璧に行おうとするのはとても大変なことです。
マルチタスクは大変…
マルチタスクとは、複数のことを同時並行で行うことです。
これがなかなか大変なときがあります。
例えば、楽器の演奏や、スポーツ、自動車の運転など、何か新しい技能を習得しようとしているとき。以下のような経験をしたことはないでしょうか?
▽ 「全部気をつけなきゃ!」と思うと、ぎこちなくなってしまい上手にこなせない。
▽ 結局、練習自体がほとんど形にならず、スキルが身につかない…
▽ 「今日はこれを身につけた!」という達成感や、できることが増えた感じもない。
例えば上記です。
こういった状況だと、上達しないばかりか、やめてしまう挫折の原因にもなってしまいます。
(自動車の教習所ではそのようなことが無いよう、1つずつ技能が身につくようにカリキュラムが組まれているはずですが…)
シャドーイングも、一気にこなすのは大変
そう考えると、シャドーイングでも「音を追うのに必死で意味を考えられない…」「やろうとしてもできない…」となってしまうのは、ある意味で自然なことです。
モデルスピーカーのスピードに合わせて、「音を聴く」「意味を理解する」「自分でも言う」といったタスクを一気にこなすのは、そう簡単なことではありません。
我々の脳内であらゆる情報処理を行なっている部位をワーキングメモリと言いますが、ワーキングメモリは一度に処理できる情報量に限界があります。
そのせいで、
- 音声を気にすると → 意味理解ができない
- 意味を気にすると → 音声処理ができない
- 音声と意味の両方を気にすると → そもそも練習自体がうまくこなせない
といったような状態に陥ってしまいます。
普段私たちが日本語を扱うときは、音の聞き取りをはじめ、無意識にこなせるものが多い(=すでに自動化している処理が多い)ので、このようなことが問題になることはあまりありません。
ですが英語の場合は、「音」「語彙」「文法」といった、1つ1つの処理がそこまで自動化していません。それぞれの処理に頭の余裕が奪われてしまい、スムーズに進めることが難しくなってしまいます。
スキル習得は「1つずつ」積み上げるが吉。
なので大切なのは、「全部一気にやろうとしない」ことです。
シャドーイングも同じです。
はじめからムリに意味の理解までしようとして、結局何も身につかない… という事態はぜひとも避けなければいけません。
始めて間もないときほど、一気に意味内容の理解までしようとせず、まずは音声の処理に集中して極めていくことが大切です。
結論:まずは音声だけに集中してOK!
ということで、まずは音を中心に意識して練習していきましょう。
- シャドーイングは、学習者を音声の処理だけに集中させやすい練習法
- はじめからムリに内容の理解までしようとせず、まずは音声だけに集中して鍛えて行くのが得策
あらためてポイントをまとめると、上記のようになります。
まずは音声面にしっかり集中し、その処理を「無意識で行えるレベル」まで鍛え上げていきましょう。そして、「音のみに集中すれば、難なくシャドーイングができる」という状態をまずは目指しましょう。
もしそれが達成されれば、リスニングの最中も、音の聞き取りに注意を要する度合いが減ってきます。そして、より「意味の理解」の方にワーキングメモリの容量を割きやすくなっていきます。
もはや音の聴き取りについてはほとんど意識する必要がなく、純粋に「相手が言っている内容」だけに集中しながら、リスニングしているような状態です。
これは普段我々が日本語を聞いているときと同じ、いわば理想の状態ですね。
ぜひそこを目指していきましょう!
(なお、上記のようなことを重視したシャドーイングの具体的なやり方や手順については、初心者でもOK!シャドーイングのやり方【手順やコツも解説】にまとめていますので参考ください。)
補足:意味の理解はどのように鍛えていく?
最後にこちらについても一言。
ここまで、シャドーイングの第一目的は音の処理力を鍛えて行くことと述べて来ました。ですが、ことばを使う目的が「意味のやりとり」ということを考えますと、やはりそれ「だけ」では不十分です。
音声面を鍛えて行く一方で、「意味を理解する」という頭の使い方も、それはそれで鍛えていかなければいけません。
(なお、「意味を理解する」という中には、「各語彙の意味を想起し → 語順などの文法処理を施して → 文の意味を見出して行く」といった一連の処理過程も含みます。)
これについては、例えば、
- 意味理解を伴いながらの音読
- 意味理解を伴いながらのシャドーイング
といった方法で、鍛えていくことが考えられます。
このあたりも視野に入れつつ、バランスよく取り入れていきましょう。
なお、1つめの「音読」については、これまでも記事を書いてきていますので、よければ 英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】を参考ください。
また、2つめの意味理解を伴うシャドーイングは、「コンテンツ・シャドーイング」と呼ばれます。ただ、難易度が高い練習法でもあるため、基本的には音だけを重視するシャドーイングが難なくできるようになった段階で、仕上げ的に行うのが好ましいとされています(門田, 2015)。
私としては、自分でスピードも調整しやすいので、まずは音読を中心に意味理解の方は練習していくのが良いと思っています。
練習の進め方(一例)
- 意味理解 → 主に音読で鍛える
- 音声知覚 → 主に音声を重視したシャドーイングで鍛える
- 上記2つに十分慣れてから、コンテンツ・シャドーイングにもトライする
例えば上記です。
やはりここでも「一気に克服しようとしない」というのがポイントです。
それぞれの学習法でどの部分を鍛えるのかを意識しつつ、また自分の状況も見ながら組み合わせていくと良いと思います。
なおコンテンツ・シャドーイングについて詳しくは、以下も参考にされてみてください。
» コンテンツシャドーイングのやり方とコツ【4つのステップで解説】
以上、今回は「シャドーイングと意味の理解」についてでした!
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【参考文献】
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.