シャドーイングは意味理解しながらやらなくていいの?
Illustration by Maria Shukshina from Icons8

Q. 「シャドーイングって意味を理解しながらやらなくていいの?シャドーイングしながら意味内容をつかんでいくなんて、とてもじゃないけどムリだし… どうしたらいい?」
本記事ではこのような内容について見ていきます。
英語を使ううえで、意味はとても重要なものです。
ですがことシャドーイングにおいては、うまく意味を理解できなかったり、あつかえないことも多いのではないでしょうか。
「意味を理解しようとしても難しくてできない…」、その一方で「意味を理解しなくて本当に効果があるの?」と悶々とされている方も多いのではないかと思います。
本記事ではこの点について詳しく見ていきましょう。
もくじ
- シャドーイングは、意味を理解しながらやらなくていいの?
- 意味の理解はどのように鍛えていけばいいの?
シャドーイングは、意味を理解しながらやらなくていいの?
結論としては、とくにシャドーイング練習の初期においては、そこまで意味の理解をしようとしなくても大丈夫です。
理由はおおきく以下の2つです。
- 理由1:そもそもシャドーイングは、音に集中させやすい練習法だから
- 理由2:はじめから意味にも注意を向けようとすると、難易度があがりすぎるから
順番に見ていきましょう。
理由1:そもそもシャドーイングは、音に集中させやすい練習法だから[1]
シャドーイングでは、次々と流れてくるモデルスピーカーの英文について、「聞いたらすぐに言う」ということをくり返していかなければいけません。そのため脳内でおこなう情報処理としては、非常に忙しくなります。
とくに慣れない英語では大変です。
このようにそもそもシャドーイングは、その過酷さゆえに学習者を「音の処理」に終始させやすいという特徴があります。
意味の理解までできないのが、むしろ良い
少しここで、普段リスニングをするときのことを考えてみましょう。
おそらく以下のように聞いていくことが、多いのではないではないでしょうか。
- 基本は文全体の内容を把握したり、話の流れを追っていくことに注力している
- 多少聞き取れないところがあっても、意味内容や前後の文脈などから、そこをおぎないながら理解している
たとえばこういった聞き方です。
もちろんこのような聞き方が悪いわけではありません。
実戦のリスニングでは意味内容を追うことは当然のことですし、仮にすべての音や語を聞き取れなかったとしても、推測力なども駆使しながら、できるだけ相手のメッセージをつかんで行こうとすることが大切です。
ですがその一方で、いつも推測に頼るような聞き方をしていては、細部まで音を聞き取って認識するためのスキルや力が、なかなか鍛えられていきません。
もし腹筋を鍛えたいなら、しっかりと腹筋を動かす必要があるのと同じです。
もし音を聞き取るスキルを鍛えるなら、「音にしっかりと注意を向けて聞き取る」ということを、何度もくり返して訓練していく必要があります。
いつも [中略] 理解段階からの補償知覚処理機能に頼っていたのでは、いつまでたっても[音声の]知覚段階自体が鍛えられないで訓練されないままになってしまいます。シャドーイングでは、特に知覚処理過程に対する大きな負荷のおかげで、常に知覚処理にスイッチを合わせておく必要があり、その分音声知覚自体を鍛えることが可能になるのです。
(門田, 2015, p.89)
このように、シャドーイングにおいて「意味の理解ができない」というのは、必ずしもデメリットではありません。
むしろ、「聞いた音をすかさず言っていかないといけない」というチャレンジングな行為が、取り組む人の注意を「英語の音」に向けさせ、それによって、音の知覚力や音の処理力を効果的に鍛えていけるという面があります。
理由2:はじめから意味にも注意を向けようとすると、難易度があがりすぎるから
理由の2つめです。
先ほども書いたように、シャドーイングは過酷な練習法です。
そんな中で、「音」だけではなくさらに「意味内容の理解」まで完璧に行おうとするのは、なかなか大変なことです。
脳の容量は限られている
我々が脳内であらゆる情報の保持や処理を行なっているスペースをワーキングメモリといいますが、ワーキングメモリはその容量に限界があるとされています。
そのせいでシャドーイング中は、以下のようなことが起こりやすくなります。
- 音声を気にする → 意味の理解ができない
- 意味を気にする → 音声の処理ができない
- 音声と意味の両方を気にする → そもそも練習自体がうまくこなせない
このように一方を立てるともう一方が立たない、といった状況にながちです。
普段私たちが日本語を耳にするときは、音の聞き取りをはじめ、無意識的にこなせる部分(自動化している部分)が多いため、このようなことが問題になることはさほどありません。
ですが慣れていない英語の場合は、「音」「語彙」「文法」などといった1つ1つの脳内処理がそこまで自動化していません。それぞれの処理に頭の容量が奪われやすいため、一度にぜんぶを取り組もうとすると、スムーズに行うことが難しくなってしまいます。
段階的に練習していくが吉
たとえばピアノの練習では、先に片手に慣れてから両手での練習に入ると思います。
自動車の運転も、まずは教習場内で1つ1つの基本動作に慣れてから、公道に出ていくはずです。
シャドーイングにおいても、「はじめから全部一気にやろうとしない」というのは、やはり大切なことです。難易度を調整しながら無理なく進めていけた方が、練習を継続したり、効果を得やすくなるでしょう。
もし「うまくシャドーイングができない…」という状況であれば、ひとまずは意味の理解まではしようとせず、音声の処理だけに集中して鍛えていくことが良いと思います。
結論:意味を理解しないシャドーイングも、意味のある練習
ということで、音を中心においたシャドーイングに、まずはしっかり取り組んでいきましょう。
いったんは意味の理解にそこまで注力しなくても大丈夫です。
シャドーイングという訓練自体をしっかりとこなせるようにし、そこから得られるメリット(音声知覚のスキルや処理能力)をしっかりと得られるようにしていきましょう。
意味の理解はどのように鍛えていけばいいの?
さいごにこちらについても一言。
ここまで、主に音を重視してとりくむシャドーイングについて書いてきました。ですが、ことばを使う目的が「意味のやりとり」ということを考えると、やはりそれ「だけ」では不十分でしょう。
音声面を鍛える一方で、聞き取った音から「意味を理解する」までの頭の使い方も、それはそれで鍛えていく必要があります。
これについては、たとえば以下のような方法が考えられます。
- 意味理解をしながらの音読
- 意味理解をしながらのシャドーイング
このような方法も取り入れつつ、バランスよく力を伸ばしていきましょう。
音読について詳しくは、 英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】を参考ください。
また、意味理解をしながらのシャドーイングは、「コンテンツ・シャドーイング」と呼ばれます。ただ、難易度が高い練習法でもあるため、基本的には音だけを重視するシャドーイングが難なくできるようになった段階で、仕上げ的に行うのが好ましいとされています。[2]
私としては、難易度のことを踏まえると、2つのうちまずは音読の方から入っていくが良いのではないかと思っています。
進め方の1例
- 音を重視のシャドーイング → 音声知覚を鍛えるため
- 意味を理解しながらの音読 → 意味理解を鍛えるため
- 上記2つに慣れてからコンテンツ・シャドーイング → 音+理解の両方を鍛えるため
やはりここでも「一気に全部やろうとしない」というのがポイントです。
段階を踏みながら、最終的にコンテンツ・シャドーイングまで取り入れていくと良いと思います。
» 参考:コンテンツシャドーイングのやり方とコツ【4つのステップで解説】
以上、今回は「シャドーイングと意味の理解」についてでした。
参考
リスニング力をあげる目的で、シャドーイングに取り組まれている方も多いと思います。リスニングの学習法については以下をご覧ください。
リスニングの学習法まとめ【理解のしくみ〜具体的な学習法まで】
リスニングの学習法について以下の4つについてまとめました。1.リスニングでの理解するしくみ / 2.リスニングができない原因と学習のポイント / 3. リスニングの学習法【基礎編】/ 4.リスニングの学習法【発展編】。最近リスニング学習をはじめた方、学習法について理解を深めたい方、伸び悩んでいる方など、ご参考ください。
おわり
ーーー
【脚注】
[1] こちらは門田(2015)の内容を参考にしています。
[2] 門田(2015)
【参考文献】
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.