英語の精読と音読は役割がまったく違う話【2つの使い分けも解説】
「それぞれどんなやる意味があるのか、ちゃんと整理して理解したい。」
今日はこんな疑問に答えます。
精読と音読は、全く目的や役割が異なる学習法です。
それぞれがどんな学習法なのかを理解し、意図や自信を持って普段の学習を進めていきましょう。
本記事の内容
- 英語の精読と音読の違いとは?
- 音読と精読に優劣はあるの?
- 2つの学習法をどう使い分けるか
では行きましょう。
英語の精読と音読の違いとは?
まず精読も音読も、基本的には「英語の理解能力」、中でもリーディング力を向上するための学習法です。
(なお、別途「音声知覚処理」も鍛えることができれば、リスニング力アップにも貢献します。)
では両者のにはどんな違いがあるのか。
それぞれの学習ターゲットは以下です。
- 精読 → 【英文を正しく読める力】
- 音読 → 【英文をスピーディーに読める力】
上記のようになります。
順に詳しく見て行きましょう。
英文を正しく読むための「精読」
精読は、英文を「正確に」理解できるようになることにフォーカスがあります。
精読では、語彙や文法の知識に基づいて忠実に分析し、その文がどのような意味を表すのか確認して行きます。
例えば以下のような英文。
これについて以下のような分析を行っていきます。
・analyseは「分析する」
・grammaticallyは「文法的に」
・accuratelyは「正確に」
etc.
・Analysing 〜 は動名詞で名詞のかたまりを作る
・grammaticallyまでがそのかたまりでS、givesがV
・giveは後ろにOを2つとれ「O1にO2を与える」の意を表す
・1つ目のOがlearners、2つ目がgood opportunities 以下
・to understand以下は good opportunitiesを修飾
etc.
そして多くの場合、和訳も用いながら、どんな意味を表すのか正確につかんでいきます。
英文を文法的に分析することは、学習者に意味を正確に理解する機会を与える。
このように1文ずつ、語彙・文法といった「言語的な分析作業」を通して、正確に文意をとるための視点を学んでいきます。
英文をスピーディーに読むための「音読」
ただ、じっくり時間をかけてようやく意味がわかるのでは、実戦で役立つ実用的なスキルとは言えません。
大量の英文を難なく理解していくには、左 → 右に読む中で、語彙・文構造を同時的に脳で処理しつつ、各文を瞬時に意味想起でる必要があります。
この力を高めていくのが、音読です。
音読では「文章を理解しながら読む」という行為を、声を出しながら何度も繰り返していきます。
それにより、人間が文を理解する際に必要とする、
・単語の羅列を文法的に解析し、文の構造を認識する
・上記2つの情報に基づいて、その一文の意味を想起する
といった処理を、脳が何度も取り組むかたちになります。
はじめは時間がかかりますが、反復することで少しずつ時間が短縮していきます。最終的には脳が無意識に素早く処理を行うようになっていきます。このプロセスを「自動化」と言います。
自動化がしっかり進むと、英文を読む際、精読のように「この語彙の意味は…」「Sはこれで、Oはこれで…」などと頭でいちいち意識せずとも、語彙や文構造に基づいて内容をパッと想起できる状態になっていきます。
自動化が流暢なパフォーマンスを決定づける
自動化という概念は、言語学習において非常に重要です。
というのも、英語に触れている最中に、人間が脳内で使えるキャパシティには限りがあるからです。
例えばリーディング中。
精読の時のように、
「ここからここまでがSで、Oで..」
etc.
などと1つずつ頭で考えていたのでは、やっとの思いで分析したものの、「肝心の内容が全く頭に残らない…」という現象が起きてしまいます。
これは、目の前の英文の分析作業に、多くの脳のリソースや意識が使われてしまっているのが原因です。
リーディング中、より文章の内容に集中して読み進めて行くには、語彙や文法といった基礎的な処理は頭が自動的・無意識的にこなせることが不可欠です(Grabe and Stoller, 2011)。
- 語彙や文構造といった細かい処理は自動化し、無意識に処理できるように
- それによって、本来の目的である「文章の内容理解」により多くの意識を割く
音読は、このような状態を作るための練習です。
(音読の効果について、より詳しくは音読の目的・効果とは?【なぜ英語力アップに効くか理由も解説】もご覧ください。また、自動化については英語のスピードについていけない。←『スキルの自動化』が鍵です。もご覧ください。)
精読と音読の学習スタイルと身につく知識の違い
さてもう少し深掘りして、精読と音読は学習スタイルという観点でも異なります。
どういうことか、まとめると以下です。
- 精読 = 座学的な勉強:頭で「知っている」状態を目指す
- 音読 = 実技的な練習:実際にやって「できる」状態を目指す
上記のようになります。
精読 =「知る」プロセス
精読は基本的に座学形式の学習法です。
英文を目にして、
・Analysing 〜 は動名詞で名詞のかたまりを作る
といった、英語を読む上でのルールを頭で確認しつつ覚えて行きます。
まずは英文の理解の仕方を「知る」ということですね。
この手の知識というは言語化が可能で、参考書の解説や授業での教師からの解説といったように、言語を介して学習者に授受されるのが特徴です。
このような「頭で理解して得る知識」「言葉で説明できる知識」のことを、認知心理学では宣言的知(Declarative knowledge)と言います。
音読 = 「できる」ようにするプロセス
これに対し音読では、単に「知っている」だけではなく、「実際にやったらできる」ようにしていきます。
つまり、単に知識を入れる勉強ではなく、実技として「練習」をすることで、身体でその技術を身につけていくということです。
このように、実際にやって難なくできる、身体にスキルとして身につけた知識のことを、認知心理学では手続き的知識(Procedural knowledge)と言います。
精読 vs. 音読の違いまとめ
ここまでの精読と音読の議論をまとめると、以下のようになります。

さて、この違いを理解した上で、2つに優劣や良し悪しはあるのでしょうか?
音読と精読に優劣はあるの?
結論から言うと、優劣はありません。
ここまででお分かりの通り、両者はターゲットとするものが異なります。英文の理解力を増すためには、座学的なアプローチも練習的なアプローチも両方必要だからです。
これは、ピアノの技術を身につける場合を考えるとよくわかります。
以下のどちらが効果的なアプローチと言えるでしょうか?
どちらの場合も、直感的に有能なピアノ演奏者になるイメージはしずらいのではと思います。
座学・練習のバランスが大事
英語も楽器の演奏と同じのように、1つの「スキル」です。
英語スキルの場合も、やはりただ量だけこなしてスピードだけあっても、座学だけで分析はできるが時間はかかるというのも、成果が出ずらい学習になってしまいます。
結果、仕事や試験などといった実戦の場面では役に立ちません。
特にこれまで、座学的な勉強が中心で、英文のスピードに課題感がある人は練習の要素を。
一方、これまで多くの英文に触れては来たがあやふやな理解で乗り切ってきたという人は、正しい英文の読み方をまずは確認していくということが重要です。
2つの学習法をどう使い分けるか
では、実際どのように精読と音読の使い分けていけばいいのでしょうか。
以下の2つのパターンで見て行きましょう。
- 1:これまで精読のような座学が主だった人向け
- 2:音読のような実技系練習が主だった人向け
1:精読が主だった人向け
このような方は、音読のような実技系の練習をしっかり取り組んで行きましょう。
基本的には語彙や文法の分析がメインというよりは、文章の内容そのものに集中し、中身を理解しながら読むように練習しましょう。
語彙・文法の分析はあくまでヒント
ただ、もし語彙、文法、文構造が複雑だったり、あやふやな理解な場合は、精読的に分析を行ってもOKです。スクリプトにS, Vなど印を入れ、構造をわかりやすくのも良いと思います。
ただ、それが目的にならないように注意しましょう。
語彙や文構造を分析するのは、あくまで音読の最中に文の内容を正しく理解できるようにするためです。
そのような印を補助にはしつつも、必ず何度もその文を読み、そこの単語や文構造からスムーズに内容が想起できるようにし、自動化して行きましょう。
難しすぎるスクリプトには注意
なお、複雑なものが多く、1文1文全部を分析的に見ないと意味がとれないものは避けましょう。
音読中、どうしても分析作業の方が主になってしまい、文章の内容の方に集中しずらいからです。
特にはじめ「リズムよく英文の内容理解する感覚」を掴めるまでは、分析もあまり必要のない易しいものを使うようにしましょう。
例えば以下です。
- 単語・文法について、わからない部分が1割以下のスクリプト
- 文学や評論など抽象的なものではなく、日常生活に即した状況などイメージがしやすいもの
こういったものを使うと良いでしょう。
「これがSで、Oで」「この語彙の意味は…で」など、いちいち意識的に考えなくても文の意味内容をつかみつつ、読み進められる。
このような感覚を、まずは養って行きましょう。
直読直解を身につける
ほぼ精読しか経験のない方は、おそらくここが大きなハードルの1つになると思います。
実戦で通用する英語の理解力を考えたときに、「英文を左から右に語順通りに、英語を英語のまま理解できる」というのが必須の条件となります。
大量の英文をスピーディーにさばけるようになるには、このような読み方を身につけることが重要です。
ですが、これまで精読が主だった方は、おそらく以下のような読み方が習慣づいていると思います。
このような、日本語をベースにした理解の仕方を根本的に変えていかなければ行けません。
基本的なアプローチ法としては以下です。
- ①:一英語を「1文丸ごと」で捉えることをやめる
- ②:それよりも小さな「意味のカタマリ」ごとに理解していく
- ③:日本語には訳さず、英語から直接イメージや概念を捉える
以上のようになります。
①②について
例えば以下のような読み方です。

このように、まず「Analysing 〜 gramatically」の意味内容をしっかり思い浮かべてから1つ下の「gives 〜 opportunities」へ。そしてそこを思い浮かべたら最後のかたまりへと進み、順に積み木を積み上げるように頭の中で内容を足していきます。
1文丸ごとで意味想起しようとすると、どうしても脳への負荷がかかり、返り読みも生まれてしまいます。
ですが、より小さな意味のかたまりごとに英語を扱うことで、1回の処理範囲が狭くなるため、意味処理が楽になり英語の語順で理解していくことができます。
(このような読み方は、スラッシュリーディングやチャンクリーディング、フレーズリーディングなどと呼ばれます。詳しくは、以下を参照ください。)
スラッシュリーディングの効果とは?【英文を効率的にさばく!】
「/」入れて英文読んで一体何の意味があるの?本記事では、スラッシュリーディングがなぜ効果的なのかを人間の脳内の情報処理の観点から詳しく解説。キーワードは「処理の効率性」です。大量の文でも素早くストレスフリーに読み進めていけるようになりたい方、必見です。
③について
また、日本語を介さずに英文の内容を直接つかんでいうことも大事です。これについては、以下も合わせてご覧ください。
英語の音読でイメージが重要な理由【イメージするコツも解説】
英語の音読でイメージする重要性と言われます。そもそもなんでイメージが重要なのでしょうか?本記事では、言語習得の観点からその理由と、イメージして音読するコツを解説。正しい音読のやり方を理解し、最大限の効果をあげたい方は必見です。
このような直読直解のスキルも、音読の中で実践できるようにして行きましょう。
2:音読のような実技系学習が主だった人向け
普段から英語を目にする機会は多いが、あまり座学としては学んでこなかったという方向けです。
普段からなんとなく感覚で理解することが多い、それによって内容を取り間違えることが多いという方は、精読も取り入れてまずは正確に読むための知識を身につけるようにしましょう。
またそれと合わせ、語彙、文法テキストの復習なども一通りやっておくと、精読でその知識を参考に分析しつつ読み進めていけるので、効率も上がってきます。
急がば回れが鍵です。
きちんと正確に英文を理解しようとすると、特にはじめはスピードが落ちると思います。
ですが、これは後退ではありません。
語彙や文法的に分析をすることで、はじめは理解に時間がかかってもOKです。
まずは英文を理解する上での「正しい型」を身につけましょう。
現在、精読や英文の正しい読み方に関して、多くのテキストや参考書が出ています。その中で、日本人学習者が間違えやすいポイントは予め説明していくれています。
そのような情報を参考に正確に読めるようになれば、あとはその読み方を自動化して行けば大丈夫です。
まずはそのようなものを参考に、正しい読み方を身につけて行きましょう。その上で音読のような実技的な練習に取り組み、精読で身につけた正しい読み方を瞬時に実戦できるようにしていきましょう。
まとめ
今日は、精読 vs. 音読についてでした。
- 精読 → 正しい理解の仕方を「知る」学習
- 音読 → スピーディーに「実践できる」ようにする学習
まとめると以上のようになります。
「正確性」と「流暢性」というバランスでご自身の英語力を見つつ、2つをうまく組み合わせ学習していきましょう。
特に「流暢性」に効く音読練習について、具体的な練習方法については、以下で網羅しています。
よければ合わせてご覧ください。
» 英語音読の総まとめ【基礎知識〜実践テクニックまで網羅】
おわり
ーーー
【参考文献】
Grabe, W. and Stoller, F. L. 2011. Teaching and researching reading. 2nd ed. New York: Routledge.