シャドーイングで「暗記」がNGな理由【対処法も合わせて解説】
やっぱり、これだとあまり意味がない?
何か良い解決法はある?
今日はこんな疑問に答えます。
シャドーイングは、流れてくる英文を次々とさばいていかないといけない、とても要求度の高い練習法です。
そのため、「スピードに着いていけないから暗記で言っちゃう…」となってしまいがちです。「それで本当に意味あるの?」という疑問も湧いてきてしまいます。
結論として、その直感は正しいです。
多くの場合、そのまま続けても成果にはつながりずらいと思います。
迷いを持ちながら練習を続けていかないといけないのは、なかなか辛いところだと思います。
今回は、なぜシャドーイングでは「暗記」を避けるべきなのか、そして、暗記に頼らずうまく練習していく方法についても考えていきましょう。
本記事の内容
- 1. シャドーイングで暗記はNG?
- 2. シャドーイングが暗記になってしまう原因
- 3. シャドーイングが暗記にならないようにする対処法
では順番に見て行きましょう。
1. シャドーイングで暗記はNG?【その理由とは】

NGな理由は、シャドーイングには以下のような前提があるためです。
- 暗記して覚えているから、自分の口で言える → NG
- きちんと音を聴いたから、自分の口で言える → OK
上記の通りです。
両方とも、最終的に「英語を言う」ということは同じです。
ですが、シャドーイングでは「そこに至るまでのプロセス」がとても大切です。
シャドーイングでは、「モデル音を聴き取り、それがどんな音かを認識する。」ということからすべてが始まります。そこをなくして、なかなか効果的なトレーニングにはなりません。
「聴いた音」を言うことの重要性
シャドーイングでは、
口にする英語 = 耳で聴いた音をもとに発するもの
であることが大切です。
きちんと耳を使うからこそ、リスニングで相手の発話を耳にした時に、それがどんな音かを素早く認識できるスキルが鍛えられて行きます。
応用言語学者の門田(2015)は、これを「音声知覚の自動化」として、シャドーイングの主な効果の1つと指摘しています。
シャドーイングは「脳内の発音知識の書き換え」にも有効
また門田は、この点についても指摘しています。
音声知覚が自動化することに伴い、自分の脳内にストックされている発音も、日本語的なものから、モデル音のようなよりネイティブに近いものに更新されていきます。
これは、シャドーイングが、知覚した音声を「すかさず」自分の口でも復唱しないといけない行為だからです。
その結果、モデル音の発音を “そのまま” “ありのままに” 頭に記憶することになり、自分の発音に関する知識がネイティブに近いものにだんだんと置き換わっていきます(p.60)。
頭の中の発音知識がネイティヴに近いものであるほど、いざ音を聞いた際に「この音だな!」と認識するのが容易になっていきます。
このようにして、リスニングでまず必要となる音声の知覚スキルが、よりスピーディーかつ効率的に行えるよう鍛られていきます。
ただし、使わない処理は鍛えられない。
もし暗記でシャドーイングをした場合は、上記のような成長プロセスにうまく取り組めていない状態と言えます。
たとえ暗記で言えたとしても、音声知覚を働かせたことにはならないからです。
口から英文を出す前の段階で、きちんと「耳を使ってそれがどんな音かを認識する」という行為に取り組むからこそ、脳内での音の判別作業(音声知覚)が鍛えられ、それを繰り返すことで、実戦のリスニングで役立つレベルへと近づいていきます。
このあたりは、筋トレに近いところがあります。
- スクワット:足を動かす → だから足の筋肉がつく
- シャドーイング:耳を使う → だから耳が鍛えられる
上記の通りです。
また、音を聴かず暗記したものを口にするという行為は、ずっと「自己流の発音で英語を口にする」ということでもあります。
そのため、頭の中の音声知識がよりネイティブに近いものに新しく置き換わっていく、というようなこともあまり期待できないでしょう。
2. シャドーイングが暗記になってしまう原因

といっても、つい暗記になってしまうのはなぜでしょうか?
1つ大きな原因としては、求められるスピードに対して、現状の自分の知覚処理スピードが追いついていないから、ということが考えられます。
シャドーイングは、やることが多くて大変です。
例えば、以下のようなことをスピーディーに取り組む必要があります。
- ①:モデル音を聴き取りつつ
- ②:自分の口でも発音していく
- ③:自分の発する音が、モデル音通りかどうかも意識する
- ④:①〜③を、どんどん流れてくる英文に対し遅れず繰り返していく
このように、シャドーイングの最中はただでさえやることが多く、とても忙しくなります。
立ち止まって「どんな音かな?」などとじっくり考えている暇はありません。
モデル音に追いついてしまうことも…
暗記だと、もはや「聴いた音を遅らせて言う」というシャドーイングの前提がなくなってしまっているため、こういったこともよく起きてしまいます。
▽ しかしすぐにスピードに着いていくのに必死に…
▽ 音を聴く余裕がなくなり、暗記したものを口にして行くように
▽ モデル音が聞こえていないので、いつの間にかそれに追いついてしまう(もしくはそれすら気づかない)
こうなると、流れているモデル音とはほぼ無関係に英語を口にしていることになってしまいます。モデル音は「聴いてマネするく対象」としてではなく、自分が言い始めるタイミングを知らせる合図でしかない、といった状態です。
ここまで見てきたような状況はいわば、回るスピードが全然違う2つの歯車が、うまく噛み合わずに空回りしてしまっているような状況です。
これだと、一方からもう一方の歯車へとうまく力が伝わりません。
シャドーイングで言えば、やっている最中も、「音声知覚に取り組むことで生じる負荷」がほとんど頭にかかっていないような状態です。
これは、ある意味で「楽なシャドーイング」です。
ですが先ほども書いたように、こういった暗記に頼ったシャドーイングは、見かけ上は遅れずに英文を言えているものの、必要な脳内処理には取り組めていないため、その処理が鍛えられていくことはありません。
では、効果的なシャドーイングとは?
「モデル音」と「音声知覚」の2つを噛み合わせながら進めていくことが大切です。
耳で音を聴く(音声を知覚する) → それを言う
つまり “listening before saying” です。
この状態を、文章がスタートしてから終わりかけてずっと保つことが大切です。
上記のようなプロセスを暗記でショートカットせずに取り組むことが、脳に適切な負荷をかけることにつながります。そして、シャドーイングがより意味のあるトレーニングになって行きます。
では具体的にどのようにして、シャドーイングを行っていけば良いのでしょうか?
以下に、その方法を詳しく見ていきましょう。
3. シャドーイングが暗記にならないようにする対処法

大事なポイントは、以下の4つです。
- ①:「音を聴く」ことを最優先に
- ②:自分に合うようレベルを調整する
- ③:音が聞こえない原因を特定して潰していく
- ④:同じ英文スクリプトを一定の期間継続して練習する
順番に見て行きましょう。
①:「音を聴く」ことを最優先に
まずは、こう言った意識を持つことが大切です。
ここまで見てきたように、音を聴かないまま形の上だけで言えたとしても、音声知覚の処理が鍛えられることはないからです。
そしてこれが大事ですが、もしモデル音の英語で聞こえない所があったときは、そこを無理して言おうとしなくてOKです。
「言えない所がある = 悪」ではない。
シャドーイングが「聴き取った音を口にしていく」という行為である以上、もし途中で音を耳で拾えないようなところがあれば、そこは英語を口にすることができないということになります。
虫食いのようなシャドーイングになってしまいますが、それで構いません。
むしろ、そういった箇所が明確になることで、「なぜ聴き取れないのか?」といった原因を分析し、そこを埋めていくことができます。
音が聴き取れない原因にはいろいろなものが考えられますが、まずは前提として「暗記で補おうとせずそのままで置いておく」ことが大事です。
(原因の分析法については後述します。)
途中で止まってもOK。また入れるところから再開しましょう。
モデル音に置いて行かれた場合は、一旦言えない箇所は飛ばして大丈夫です。
また入れるところからシャドーイングを再開するようにしましょう。
途中でスキップしてしまう所があっても構わないので、まずは文章の全体を通して、概ね「音を聴く→それを言う」ということができている状態をキープするようにしましょう。
②:自分に合うようレベルを調整する
上記のように、暗記をやめることで、言えない箇所が出てくると思います。
そのような箇所が一部だと良いのですが、あまりに多すぎると、シャドーイング自体がまったく形にならないということにも繋がります。
その場合は、シャドーイング中の負荷を調整することが大切です。
・馴染みある表現が多く、スピードも穏やかな教材を使う
・一旦聴くことだけに集中して、あえて発音する方にはあまり神経を割かない
etc.
例えば上記です。
これについては、いろんな手法を過去の記事で解説しています。
よければ以下を参考ください。
シャドーイングが難しくてできない【そう感じる時に考えるべきこと】
シャドーイングが難しくてうまくできないという方向けです。シャドーイングはそもそも認知負荷の高い練習であり、多くの方が困難に思う練習法です。このよう状況をどう打開すればいいのか、本記事では具体的なアプローチ法を解説しています。シャドーイングがうまく行くよう、次の一手を知りたい方は必見です。
このようなことを積極的に取り入れながら、まずは空回りしてしまっている「自分」と「モデル音」の歯車どうしがきちんと噛み合う状況をつくりましょう。
③:音が聞こえない原因を特定して潰していく
聴くことを重視しながら練習していると、「いくら耳を澄ませても聴き取れない…」「文字で見てもそう言っているようには聞こえない…」という所が出てきます。
このようなケースでは、「自分が想定している英語の音」と「実際にネイティブが発している音」の間にギャップがある場合が多いです。
人は音声を知覚しようとする際、外から入ってくる音声と、自分が頭の中に持っている音声の知識を照合させながら認識しています(門田, 2015)。
2つのギャップの程度によって、以下のようにパフォーマンスに違いが生まれます。
- 自分の音声知識が、実際に話される英語の音に近い → 知覚が楽で速い
- 自分の音声知識が、実際に話される英語の音から遠い → 知覚が大変で遅い
上記の通りです。
後者の場合は、いざ音を聞いても頭の中に照合先となる音声知識がないため、「何度聞いても聞こえない…」「雑音としか思えない…」と感じることもしばしば起きてしまいます。
結果として、シャドーイング中に止まってしまったり、遅れの原因になってしまいます。
頭の中にない音は、新たに身につけていきましょう。
以下は、特に日本人にとって聞こえずらい英語の音声的な特徴です。
- 各単語どうしが繋がったり、あるべき音が消えたりする「音声変化」
- 英語独自の「強弱リズム」
もちろん前提として、一単語ずつの正しい発音を知っていることは大切です。
ですが必要なのはそれだけではありません。
特に「全部知っている単語のはずなのに、なんて言っているのか聞こえない…」という場合には、上記のような「音声変化」や「強弱リズム」が原因になっていることが多いです。
ただしこのあたりは「英語の音に関するルール」をきちんと理解し、分析して行くことで正しく認識できるようになっていきます。
以下のような知識は、「なぜ聞こえないのか?」「ネイティブはどう言っているのか?」を突き止める上で便利なツールになりますので、ぜひ参考にされてみてください。
また、正しい音を確認したあとは、頭にうまく定着させていくことが大切です。
まだ十分に定着できていない音声は、いきなりシャドーイングにトライしてもうまく扱うことができません。ステップを踏みながら自分のものにし、少しずつシャドーイングの精度をあげていきましょう。
このあたりの進め方も詳しくまとめていますので、ぜひ参考ください。
» シャドーイングの精度を上げていく方法【5つのステップで解説】
④:同じ英文スクリプトを一定期間継続して練習
あとは、「繰り返しの練習」がやはり大事です。
特にはじめは、同じスクリプトの英文を、3〜7日くらいの単位で取り組んでも問題ありません。
まずは、そのスクリプトに含まれる音声的な特徴にしっかり慣れて行きましょう。
日々、少しずつ楽にこなせるようになる感覚を持てるように。
暗記に頼らないことで、はじめはどうしてもぎこちなくなり、また頭に余裕もなく、疲れる感覚を持ってしまうと思います。
ですが、この「負荷」が大切です。
噛み合った歯車は、はじめは回転するのに多くのパワーを要し、ゆっくりでしか回れないのと同じです。
それでも少しずつ勢いがついて行き、速く回るようになってきます。
シャドーイングでも同じです。
「音を聴く → それを言う」ということを意識すると、はじめは多くの負荷が頭にかかると思います。ですが、その負荷がかかる状態で反復練習し、少しずつその処理に慣れていくことが大事です。
ここまでご紹介してきた方法も使いながら適切に練習を繰り返せば、昨日より今日、今日より明日と少しずつ楽にできるようになっていくはずです。
暗記に頼らず、耳で音をしっかり聴きながら反復し、音声知覚処理を自動化して行きましょう。
まとめ

以上、今回は、シャドーイングで暗記はNG、暗記になる原因&その対処法でした。
よければ参考ください。
おわり
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【参考文献】
門田修平. 2015. 『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』 東京:コスモピア.